2018.02.14
ミナミちゃんの恋人 Vol.1苦労知らずの箱入り娘。その人生設計
―美波ちゃんは、少なくともパパと同等か、それ以上の男の人と結婚なさい。女の子が生まれ育った生活レベルを下げるのは、とっても難しいのよー
専業主婦であった母は、一人娘の美波が年頃になると、よくそんな風にぼやいていた。
もちろん、母の教えに異論はない。
美波の家族は絵に描いたような円満家庭で、商社マンの父親は母と自分を大切にしてくれた。大金持ちでなくとも裕福な方で、大田区雪谷にある一軒家の実家も最高の居心地だった。
小学生の頃は父の仕事の都合でシカゴに住んだこともあり、英語力もそれなりに備わったため、美波は受験や就職活動も大した苦労はせずに乗り切ることができた。
―あとはパパと同等か、それ以上の旦那さん...。
やはり母の言う通り、今後の人生を送るにあたっては、父のような男が必要である。美波は都内の女子大を卒業する頃には、ぼんやりと女としての人生設計を意識するようになった。
そうしていくつか貰った内定の中から選んだのは、大手航空会社のCAだ。
母の勧めで幼い頃から長年バレエを習ったため体力には自信があったし、接客業も好きだったからだ。
それにCAとなったテニスサークルの先輩に聞いたところ、この仕事は結婚や出産後でも自分のペースで働きやすいし、職業的な人気は下火とはいえ、やはり普通のOLよりは男性との出会いも多く、何だかんだで好感度も高いと言うのだ。
お友達とたくさん海外旅行もできて楽しいわよ、と微笑んだ先輩の優雅な表情を見たとき、苦労知らずの美波の就職先は決まった。
サークルの先輩が予言した通り、美波のCA生活はなかなか充実していた。
平日朝から晩まで内勤で働くOLよりは休みも多く、海外旅行も行き放題。もともと女子校育ちの美波にとっては、女の職場も思ったよりずっと居心地がよく、新しい友達もたくさんできた。
プライベートにおいても、やはり先輩の言った通り、恋人探しに事欠くこともない。
父と同じ商社マンや、パイロットにお医者様、外資系のサラリーマンなど、出会いはいくらでもあったし、そのうち数人とお付き合いもした。
だが“結婚相手”となると、どの男性たちも、どうもしっくり来ない。「父と同等か、それ以上か?」と問われれば、答えはNoなのである。
それは経済力やステータス、出自などの条件が問題というわけでもなく、明確な理由は美波自身もよく分からなかった。
だが、孝太郎との出会いで、美波は初めてその答えに気づいた。
それは他でもない、美波自身がその男性を尊敬し、心の底から愛せるかどうか、という根本的な問題だったのだ。
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