―どうして私が、こんな辺鄙な土地に住むの...?―
幸せな家庭を築くことを夢見て、コツコツ女としての人生の駒を進めてきた大手航空会社CAの美波(ミナミ)、27歳。
ルックス・収入・性格とともに完璧な港区男子・孝太郎と出会い、順調に婚約まで済ませた今、まさに幸せの絶頂期。
しかしのほほんとしたお嬢様気質の彼女を待ち受けていたのは、実は“下町出身”の彼がもたらした、思いがけない災難だった。
「...僕のプリンセスへ」
シャネル銀座ビル最上階の『ベージュ・アラン・デュカス東京』にて、濃厚なチョコレートとヘーゼルナッツのデザートをうっとりと堪能していた美波は、この日、人生最大の幸福も一緒に味わった。
恋人の孝太郎がスッと人差し指を立てて店員に合図をすると、大きな白い薔薇の花束が目の前に現れたのだ。
「...ど、どうしたの...?急に、こんな素敵なお花...」
突然の演出に驚きと嬉しさで言葉に詰まる美波を、孝太郎は愛おしそうに見つめながら、優しく手をとる。
「美波、僕と結婚してください。君と出会えたのは、僕の人生で最大の幸せだと思ってる」
「.........!!!」
いつもながら少しキザな孝太郎のセリフが、稲妻のように全身に響く。
すると今度は、身体の奥底から止め処ない幸福感が湧き上がると同時に、思わず涙がどっと溢れてしまった。
「もちろん...!私、孝太郎くんのいい奥さんになるわ。嬉しい...!」
孝太郎は、「ったく、泣くなよ」と呆れたように笑いながら、指で頰の涙を拭ってくれた。
美波はまさに夢心地の気分で、愛する孝太郎の顔を見つめてみる。
彼は政界や芸能界で活躍する、かの有名一族の長男に似たハンサムな顔立ちで、そのうえ30歳という若さで有名なITベンチャーの役員に名を連ねているという、美波にとってパーフェクトな恋人だ。
孝太郎が自分を「プリンセス」と呼んでくれるならば、彼も私の王子様に違いない。
しかし美波は、これから徐々に明らかになる王子様の意外な本性を、全く見抜けていなかった。
この記事へのコメント
いろいろ口出しされるが、
旦那は逆らえないパターンかな。
一話でわかる、ミナミには無理だ、やめとけ!