数時間後、食事の時間になり各座席に料理が運ばれてくる。
今回は長めの出張だったので奏太はアメリカの油の多い肉料理に飽きてしまい、日本食がとても恋しかった。
―やっと、日本食が食べられる……!
そう思っていた。
自分の席に料理を運んできたのは先ほどのCA、つまり凛だった。しかしなぜか非常に申し訳なさそうな表情をしている。
「お客様、お食事のご希望をお伺いしたいのですが、今回和食ご希望の方が多くいらっしゃいまして…。大変申し訳ないのですが、もし差し支えなければ洋食をご用意させていただいてもよろしいでしょうか。」
奏太は非常に残念に感じた。しかし、一瞬迷った上でとびっきりの笑顔を浮かべ、こう答えた。
「はい、洋食で問題ありませんよ。」
CAという職業は、常にお客のことを考えとても気を遣うらしい。ただでさえわがままなお客が多い中、たまに気遣いのできるお客がいるととても嬉しい気持ちになると聞いたことがある。
「……本当に申し訳ございません。ありがとうございます!」
凛は本当に申し訳なさそうな顔でこう答えた。
CAは例外なく、申し訳なさそうな表情をするのが本当に上手い。この表情をされると、どんなことでも許せてしまう気がする。
しかし、今回はその表情をされたからCA凛の提案を受け入れたのではない。そうすることで凛に少しでも気に入ってもらいたいと考えたための行動である。
食事を終え、座席のディスプレイで公開前の映画をぼんやりと眺めながら、どうやって凛の連絡先を聞き出そうか考えていた。
その時、ちょうど凛が何かを持ってこそっと奏太の席までやって来た。
「お客様。こちらファーストクラスで余ったデザートなのですが、先ほどのお礼に、もしよろしければお召し上がりください。」
「え?いいんですか?ありがとうございます。」
先ほどの作戦が功を奏したのか、凛の連絡先を聞き出したかった奏太にとっては、絶好のチャンスが訪れた。
しかし、奏太は少し考えた。
CAという職業は女社会であり、規律もとても厳しいと聞いたことがある。しかもOLと違って機内には給湯室のような逃げ場もない。万が一お局様に目を付けられでもしたら、長時間のフライトでは身が持たないだろう。
CAに声掛けするテクニックとして、紙コップの裏に電話番号書いて渡すのが良いと、あるテレビでお笑い芸人が話していたのを聞いたことがある。
しかし前述の理由から、他の乗客やCAの目がある場所で渡すのは良くないはずだ。
このタイミングで連絡先を渡すのは、やめておいたほうが得策だ。自身で別の機会を作ることにした。
食事のサービスが終わり数時間後、トイレに行くふりをしてギャレイ(機内で食事を準備する場所)へ向かった。
そこには、1人で片付けをしている凛の姿が見える。少しタイミングを見計らって、奏太は小声で話しかけた。
「すみません。ボールペンをお借りしても良いですか?」
「もちろんです。」
凛は笑顔で答えた。
奏太はポケットから取り出したポストイットに、小さな字で素早く丁寧にメモを書いた。
「デザートのお礼に一緒に行きたいお店があります。もしよかったら行きませんか? 080-XXXX-XXXX 清水 奏太」
書き終わるとボールペンと一緒に、小さなポストイットをこっそり凛に渡した。
凛はそれを驚いた様子で受け取り、すぐにボールペンと共にポケットへ仕舞うと同時に小声で奏太へ伝えた。
「ありがとうございます。こちらからの連絡は会社の規定で禁じられておりますが、有難く頂戴いたします。」
―これは、お断りされたのだろうか……?
奏太は考えたが、答えは出なかった。
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次週、CA凛から意外な反応が……!?
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