その夜、清はいつもよりも早めに帰宅した。ただならぬ雰囲気を察したのか、神妙な面持ちだ。
可奈子もいつになく真剣な表情で清に向いて座り、少し震えながら口を開いた。
「実は今日、異動の内示が出たの。それでね、異動先がNYだったの。」
清の顔が、みるみる蒼くなっていく
「え?で…、どうするつもりなの?」
「辞令だし、行くしかないと思ってるんだけど。」
「そりゃ勿論働いてる以上、異動辞令が出たらどこへでも行くのは当たり前かもしれないけど、行く先がNYだったら話は別でしょ。僕たちの今後への影響が大き過ぎるよ。」
清はそう言い終えると、大きく息を吸ってさらに続けた。
「子供はどうするつもりなの?二人とももう若くないし僕としてはすぐにでも作りたいと思ってるのに。」
「子供はいつか必ず産みたいと思ってるよ。でも、これがラストチャンスだと思うの。もし子供がいたらこの話は諦めるしかなかったけど、今ならまだ子供もいないし…子供はいつか必ず産むって約束するよ。でも少し待って欲しいの。」
感情的にならないよう、可奈子は自分の気持ちを淡々と伝える。だが清は、到底納得がいかないという顔を崩さない。
「僕だって二人がもしあと5歳若かったらこんな事は言わないよ。」
「じゃあ例えばさ、子供が出来るまでの夫婦の時間をもっと楽しんだりできない?私がNYに行ったら二人で海外で待ち合わせて、色んな所に旅行したり。私はもっとこの機会に、普通じゃ経験出来ないことを二人でしたいんだけど。」
「僕は普通じゃ経験出来ない事なんて別にしたくないんだ。普通の家族になりたいんだよ。」
普通の家族になりたい。そう言われて可奈子は返す言葉が見つからなかった。
清も今後の人生で国内外どこへでも異動する可能性がある。可奈子だって同じだ。夫婦で同じように働いて所謂普通の家族のように一生一緒に暮らすなんて、そもそも出来るのだろうか?
どんな環境でも支え合って一生を共にするパートナーでありたいと願うのは、我儘なのだろうか?
言葉にできない思いを、可奈子はぐっと飲み込む。
清はいつもは可奈子の良き理解者で、可奈子のやりたい事に真っ向から反論する人ではない。
そんな清がこの件については頑として譲らない。
それが余計に、清が本当に早く子供を欲しいと思っているのだと可奈子に感じさせた。
大切な人の悲しむ顔は見たくない。
だがそのために自分が一方的に諦めて、果たして幸せな家族になれるのだろうか?
不安そうな清の顔を見つめながら、お互いが納得出来る着地点は一体どこなのだろう?と、可奈子は返す言葉を見つけられずにいた。
しかし、この先の子供を巡る話し合いは夫婦の間だけの話ではなくなって行くのだった。
▶NEXT:2月7日 水曜更新予定
可奈子と清の話し合いの行方は?
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<回答期間:2018年1月30日(火)~2018年2月6日(火)>
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この記事へのコメント
最低限結婚前に話すことでは?
健康な子が生まれる保証もないし。
どこかで何かを諦めざるを得ない。
女性も男性も。
諦めた向こうに、得難い幸せがあるかどうか…
短時間で決めるにはおおごと過ぎる。