上司にも、誘われない?
昨日早く帰ってしまったので、今日は仕事がたっぷり溜まっている。
誰からも誘われなかったというショックを抱えながらも、膨大な量の仕事をこなしていったら、すっかりそんなことは忘れていた。
残業中、デスクで大きく伸びをしていると、グループリーダーの上原が現れた。本国との会議が終わったようだ。
「上原さん、お疲れさまです~!」
すかさず、さとみが声をかける。上原は41歳で、このPRチームのトップ。夏希も新入社員時代からお世話になっている上司である。
「お、まだ残ってたのか。そう言えばこの間の資料だけど…」
さとみと上原は、何やら話しこんでいるようだった。
「…じゃあ、飲み行くか」
思わず耳をそばだてて聞いていると、そんな会話が聞こえてきた。
上原は部下を引き連れて飲みに行くのが好きで、夏希もしょっちゅう付き合わされる。きっと自分にも声がかかるだろうと思い、パソコンをシャットダウンした瞬間。
―あれ……?
「じゃあ、俺ちょっと先に寄るところあるから、先行ってるわ」と言いながら、上原は出て行ってしまった。
―ふーん……。
一気に、白々しい気分になった。
昨日の食事会といい、今の上原の言動といい、全てさとみに持っていかれたようで、夏希のプライドはズタズタである。
このまま1人で帰りたくなかったので、孝之に連絡することにした。孝之に会えば、このクサクサした気分は、いくぶんマシになるだろう。気づけば仕事の忙しさにかまけ、12月は数えるくらいしか会っていない。
返信を待っている間、化粧室に立ち寄ると、そこにはさとみがいた。今一番、見たくない顔だ。
「夏希ちゃん、お疲れさま~♡」
さとみは、リップをつけ直しているところだった。
健康的な艶やかさをもつさとみと、ばっちりメイクの夏希。鏡に映る自分とさとみは、対照的だった。
遅くまで残業しているのに、さとみの肌はお風呂上がりのように艶やかな照りを放っている。自分には隠すところがないと言わんばかりの、すっぴんのような肌だ。
「…もしかしてノーメイク?」
思わず声をかけると、さとみは驚いたように目を見開いた。
「まさか~!最近、化粧品変えたからかな?よくすっぴん?って聞かれるようになったんだ」
そう言ったさとみの肌は艶やかな光を放っていて、それを見るとなぜか決定的に負けた気分になった。
◆
悪いことは、続くものだ。
孝之から返信がなかったので、諦めて帰ろうとしたとき、エントランスでまさかの光景を目にしてしまったのだ。
それは笑顔で話している、さとみと孝之の姿だった。
―え…。何でさとみが、孝之と一緒にいるの…?
夏希の頭は、一気に混乱した。しかしそんな夏希の様子に気づく様子もなく、2人は楽しそうに話している。
孝之のデレついた顔を見ると、さとみの「さすが」「すごい」という声が、聞こえてきそうだった。
男に媚びを売る女と、それを許す男。
夏希の大嫌いな光景が、目の前に広がっていた。
▶NEXT:1月5日金曜更新予定
ショックを受けた夏希が向かった先とは…?
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