東京には数多くの美女がいるが、その中でもこんなタイプの女が存在する。
それは、美人なのに“誘われない女”だ。
外資系アパレルブランドのPRを務める夏希(29)は、目鼻立ちのはっきりした美人で、仕事もでき、社内では憧れられる存在。
しかしある女の出現で、絶対的な夏希の自信が、少しずつ崩れ始めて…。
夏希には、この世で大嫌いなものが2つある。
男に媚びる女と、それを許す男たちだ。
◆
「朝5時からランニング!?…さすが外資系証券マン♡すご~い!」
―また、始まったわ…。さとみの「さすが」・「すごい」攻撃。
今日は同期のさとみに誘われて、外資系証券会社勤務の男たちとの食事会に参加していた。夏希がこうした場に来るのは、久しぶりである。
「夏希ちゃん、飲んでる~~??」
夏希が会話に加わらないのを気にしてか、さとみが小さく首を傾げながらやって来た。こちらを見る目は潤み、ざっくりニットのVネックからのぞくデコルテはほんのり赤味がかっていた。
「うん、大丈夫」
ワイングラスを持ちあげ、めいいっぱいの作り笑顔で答える。話の輪には入らず黙々とワインを飲んでいると、斜め前に座っていた男が話しかけてきた。
「ワイン、お好きなんですか?」
「えぇ…。すみません、1人でたくさん飲んでしまって」
しかしそのやりとりは、隣に座るさとみの黄色い声に一瞬でかき消された。
「えぇっ!?地元、兵庫なんですか?私、その近くの幼稚園通ってた~~♡」
夏希は、小さく溜息をつく。
さとみがいると、どうしたって調子を狂わされるのだ。