誘われない女:「何で、あの女と…?」チヤホヤされる同期が、許せない。嫉妬に駆られた女のもくろみ
東京には数多くの美女がいるが、その中でもこんなタイプの女が存在する。
それは、美人なのに“誘われない女”だ。
外資系アパレルブランドのPRを務める夏希は、目鼻立ちのはっきりした美人で、仕事もでき、社内では憧れられる存在。
同じ会社には付き合って1年になる彼氏・孝之もおり、恋も仕事も順風満帆だった。
しかし同期のさとみが異動してきたことで、絶対的な夏希の自信が、少しずつ崩れ始める。
一緒に行った食事会ではさとみだけがデートに誘われ、また職場でもさとみだけが上司に飲みに誘われる。
そんなある日、彼氏の孝之が、さとみと一緒にいるところを目撃してしまい…?
他の女と飲みに行った男の帰りを待つとは、こんなにも惨めな気分になるのだろうか。
何度も来ている男の部屋なのに全く気が休まらず、テーブルの上に置いてあったメンズファッション誌をめくりながら、何とか時間をやり過ごそうとしていた。
さとみと一緒にいる姿を目撃してしまった後、夏希は悩んだ末に、合鍵を持っていた孝之の家に乗り込んだのである。
孝之の家は、恵比寿にあるデザイナーズマンションだ。コンクリート打ちっぱなしの部屋は洒落ているが、驚くほどに寒い。
寒々とした部屋で一人待ちながら、このまま孝之が帰ってこなかったらどうしよう、という不安が頭から離れなかった。
◆
日付も変わり深夜1時を回ったところで、ようやく玄関からがちゃりとドアを開ける音がした。その瞬間、夏希は大きく息を吐いた。
「あれ…。来てたんだ」
リビングにいる夏希を見て、孝之は驚いた表情をした。
「ごめん、携帯の充電切れてたわ。平日に来るなんて珍しいけど、どうかした?」
「…明日近くで打ち合わせがあって。ここから行った方が、近いのよ」
近くで打ち合わせがあるというのは、もちろん嘘だ。
本当は今すぐにでもさとみと飲みに行っていたことを聞きだしたいが、夏希のプライドがそれを許さなかった。
「…相変わらず仕事熱心だな」
常日頃から、孝之は必要以上の詮索を一切しない。結果的に、プライドが高い夏希は本心を打ち明けられず、モヤモヤを抱えたままになる。
仕方なく、夏希はキッチンに立って湯を沸かす。コーヒーを飲みながらゆっくり今日のことを聞き出そうと思ったのだ。
しかしその一瞬の間に、孝之はソファでグーグーと眠りに落ちてしまった。
―えっ……。
自分は何をしに来たのだろうと虚しくなると同時に、最近一緒に眠りに就いたのはいつだろうと、思わず計算してしまった。