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家に帰り、私はぼんやりと窓の外を見つめていた。
この家に引っ越した一番の決め手は、この広い窓だ。たっぷりと陽の光が差し込む窓の近くで、圭吾の言葉を思い出していた。
―僕たちは、うまくいってるじゃないか。
でも…。私たちは、本当にうまくいっていたのだろうか?
突然の別れの言葉に、圭吾は取り乱しはせず、「僕たちはうまくいってるじゃないか」と繰り返した。いつでも平然を装うのは、折り合わない現実から目を背けようとする、彼の弱さなのかもしれない。
―あれ…?
そんなことを考えながら窓の外を見ていると、遠くを走る一台の赤いクルマが目に入った。その後ろ姿を目で追っていると、透君が好きだと言っていた、流れるようなルーフラインのシビックだと気づく。
NY駐在中といい、西麻布の交差点で見たときといい、私はこの赤いシビックにどうも反応してしまう。でもまさか、透君ではあるまい。あの夜以来、一切連絡がないのだ。
しかし、そのクルマは私のマンションの前で止まった。
そしてそのとき、一通のLINEが届いた。
―詩織さん、いま家ですか?今から、会えませんか?
メッセージを見て、すぐに下に降りた。息を切らしながら来た私に、透君は驚いた表情を見せた。
「LINE見たわ。どうしたの?」
すると透君は真剣な表情でこう言った。
「彼氏いるの分かっているし、イケナイことだって分かってるんですけど…。」
「え…?」
「実はゴルフ前日に、彼氏と歩いているの見ちゃったんです。だからこうして僕が付きまとうと、詩織さんを困らせるのかなって…」
その言葉に、何も返せなかった。この数日連絡がなかったのは彼なりに真剣に考えてくれていた、ということなのだろうか。
「困らせているのは、分かっています。でも…また、ドライブしませんか?」
少しはにかみながらも、ストレートに気持ちをぶつけてきた透君は、やっぱりズルい男だなと思う。
男は平静を装うことでかっこつけようとするけれど、女の心が動くのは、真っ直ぐな気持ちをぶつけられたときなのだ。
私は改めて、透君への気持ちを確信した。
「…イケナイことじゃないわ」
「…え?」
そう小声で言いながら、私は透君のシビックに乗り込んだ。
―Fin.
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