LESS~プラトニックな恋人~ Vol.6

LESS〜プラトニックな恋人〜:結婚生活を続けるのが地獄に思えた。34歳女の離婚理由

心を決めた夜


茜が紹介してくれた、ビジネスホテルチェーンの御曹司・瀬尾さんから再び誘いがあったのは、初めて会った日から2ヶ月近くが経ってからだった。

家まで迎えに来るという申し出をどうにか断り、代々木上原の『セララバアド』で待ち合わせると、私を認めた瀬尾さんがわかりやすく嬉しそうな表情を浮かべるのが見えた。

「美和子さん。いや、なかなか時間が作れず本当にすみません」

「いえ、お忙しいと伺っていたので」

時々届く短いLINEからも、彼の多忙さは伝わっていた。ここ最近はずっと、宮崎と福岡に新設するホテルの開業準備で九州と東京を往復する日々らしい。

しかし時間が空いたことは、むしろ私なりに気持ちを整理することができて好都合だった。特に百合さんと話してからは、無理矢理にでも前に進むしかないんだと自分に言い聞かせ、健太とは少しずつ、距離を置くようにもなっていた。

私は瀬尾さんとの再会に彼が好みそうなリトルブラックドレスを選び、いつもより赤いグロスで艶を纏った。

「…でもあまりに連絡がないので、もしかして何か嫌われるようなことをしたかと心配していました」

彼を見上げるようにしていたずらっぽく笑ってみせると、彼は「とんでもない!」とムキになって弁解をはじめ、そんな彼を私は可愛いな、と思った。


「美和子さん」

コースも終盤に差し掛かろうという頃、目前で繰り広げられる芸術的なデモンストレーションに見とれている私の横で、瀬尾さんが急に落ち着きなくソワソワし始めた。

改まって名前を呼ぶ声に、私は直感的に身構える。

彼の強引な性格から、こういう展開になるであろうことを予想はしていた。私は、ともすると引きずられそうになる過去に決別するように、深呼吸をする。

「はい」

「美和子さん、その…僕と、結婚を前提に真剣にお付き合いをしていただけませんか?まだ会って間もないですが、とても美しく魅力的で、僕にとって美和子さんは、ぜひ人生を共にしたいと思える方だ」

瀬尾さんの眼差しは真剣そのもので、迷いも躊躇もない。そんな彼にただ身をまかせて生きていける女は…きっと、幸せだろう。

「ありがとうございます。そんな風に言ってくださって嬉しい。ただ…」

私の言葉を聞いてわかりやすく上気するまっすぐな彼を、これ以上裏切るわけにはいかない。私は、覚悟を決めた。

「瀬尾さん、実は私には、同棲している人がいます。きちんと別れるまで、少しお時間をいただけますか?」

「そう、だったんですか…」

瀬尾さんは思いがけない私の告白をすぐには受け止められない様子で、その後たっぷり2分間黙り込んでしまった。

正直に話したのは、私にとってある意味賭けだった。

真実を知ってもなお、彼は私を選ぼうとするだろうか。私を、信じてくれるだろうか。…ダメなら、それまでだ。

しかし瀬尾さんは、いつも通り有無を言わせぬ口調で、私にこう言ったのだ。

「わかりました。その代わり、僕とやっていく気があるなら、すぐに家を出てください。新しい家は、僕が早急に手配します」

彼の命令にも似た言葉に、私はただ、頷いた。


▶NEXT:12月12日 火曜更新予定
ついに美和子が、健太に別れを切り出す。

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