LESS~プラトニックな恋人~ Vol.5

LESS:“別の人生”を考えた夜。女の本能をくすぐる、強引な男との出会い

強引な男


「こちら、私の幼馴染で、お父様が経営するビジネルホテルチェーンの…今は専務だっけ?をしている、瀬尾雄介さん」

金曜の夜。女子大時代からの親友・茜に連れてこられてやってきた『銀座うかい亭』

鉄板を目前にして曲線を描くカウンターに、私、茜、そして瀬尾さんの順に並んで座った。それでなくても緊張する場面であるのに加えて、高級店独特の重厚感に私は縮こまってしまう。

「そしてこちらが私の大学時代からの親友、美和子」

茜に促され、私はぎこちなく瀬尾さんに会釈する。

そっと、悟られないように彼を観察していると、ヘアスタイルもスーツ姿も、一糸乱れぬ感じに真面目さやストイックさがにじみ出ている気がした。

瀬尾さんは2つ年上で、32歳。けれど年齢以上の風格を纏っていて(身長が高いせいもあるかもしれない)、彼についていけばきっと間違いないのだと、無条件に思わせるオーラを持っていた。

「美和子さん。いや、素敵な方を紹介していただいて本当に有難い。茜の紹介なら安心だ。ずっと仕事ばかりしていて出会いがなく、両親は見合いを勧めてくるんですが…僕としてはできれば恋愛結婚を、と思っていたので」

「そ、そうなんですね」

瀬尾さんは、まるでビジネス会食のようにテキパキと流暢に話す。

いきなり「結婚」というワードが出て私はどきりとしたのだが、彼にとっては至極当然の事のようで、そこに一切の躊躇も迷いも感じられない。

「美和子は化粧品会社でPRをしているの。美人で明るいから、適任よね」

茜が横から自慢するように言うので、名の知れたビジネスホテルチェーンの御曹司に対して恥ずかしいわ、と私が謙遜していると、彼は自信に溢れた声で同調する。

「いや、僕もそう思いますよ。ただ…僕と結婚したら、仕事は辞めてもらうことになると思う。奥さんには、外で働いて欲しくないんです。子どもも最低2人は欲しいし、しっかり家を守ってもらえる方だと嬉しいなぁ」

口を挟む余地のない言い方に、私は黙り込んでしまった。

しかしそれは、反発する気も湧かないほどに屈託のない言い方だった。きっと彼には、自分の意見を押し付けている自覚すらないのだ。

彼は、相手の…女性の意見を尊重するような生き方をしてこなかったのだろう。これまでも、そして、これからも。

「美和子さんは、子どもは好きですか?」

「え?あ、はい。好きです」

またもや有無を言わせぬ質問をされ、同意しておく。

強引な男は、好きじゃないはずだった。

それなのになぜかこの時は、「嬉しいなぁ」と満足そうに笑う瀬尾さんの横顔を、私は嫌いじゃない、と思った。

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