その日の昼休み、同じ部署の中尾がいかにも興味津々といった様子で聞いてきた。
「なぁ、お前やけに親しげに小宮山さんと話してなかった?」
「いや、違うよ……、アレは……。特に何もないよ。」
一瞬説明しようかと思ったが、“猫に似てる”なんて言いたくなかったので、口をつぐんだ。
「なんだよ、水くさいなぁ~~~。小宮山さん、いい女だよなぁ。35歳らしいけど、見えないよなぁ。」
「そうか??」
僕がつっけんどんに言うと、中尾は「何怒ってるんだ?」と不思議そうな顔をした。
「透は、年下好きだもんな。……そう言えば、昨日帰るって言っておきながら、ユリちゃんと抜けただろ!?あの後、どうしたんだ?」
「あぁ……。昨日は軽く飲んだだけだよ。来週末、また会おうって話になったけど。」
「いつの間に……!!ほんとお前って、ズルい男だなぁ。で、ユリちゃんとどこ行くの?」
「まだ決めてないけど、ドライブかな。鎌倉とか。」
「え、お前車買ったの!?日本に帰ってきたばかりなのに!!」
「……帰ってきたばかりって言っても、もう半年前だぞ。」
「ズルい男だ」とわめく中尾にとりあわず、僕はスマートフォンで鎌倉の美味しい店を探すことにした。
◆
「透くんっ!」
翌週末、ユリの住むマンションの下に迎えに行った。
僕のクルマに気づくと、彼女は白い息を吐きながら、懸命に手を振ってやってきた。
「このクルマ、初めて見た!かっこいいね♡」
ユリは僕の新車である真っ赤なシビックに乗って、ご機嫌な様子だった。
僕がこのクルマを知ったのは、駐在しているときだ。
慣れない駐在生活で苦戦しているとき、日本車が久々にアメリカでカー・オブ・ザ・イヤーを受賞したとニュースで知り、なんだか勇気をもらったのだ。
そして帰国してからすぐ、日本で発売したばかりの新型シビックを購入した。周りには海外メーカーのクルマに乗っているヤツらも多かったけれど、僕の気持ちは変わらなかった。
恐らく、成長して日本に帰って来たシビックと自分の人生が、重なって見えたのだと思う。
「鎌倉まで、1時間くらいかな。コーヒー買ってあるから、好きなときに飲んでね」
僕の言葉にユリは「何から何まで、ありがとう」と恐縮しながら、懸命に車内を盛り上げようとしてくれた。
◆
その日は江の島水族館に行き、近くでランチを食べ、由比ヶ浜でサンセットを見て東京に戻った。冬の鎌倉は空も海も綺麗で、ユリも大満足のようだった。
夕食は東京でとろうと、六本木のイタリアンレストラン『サッカパウ』を予約し、西麻布の交差点で信号待ちしていると、ちょうど目の前に見覚えのある姿があった。
それは、詩織さんだった。
彼女は隣の男性に腕を絡ませ、何やら親しげに話している。その男性は眼鏡をかけた、いかにも真面目で穏やかそうな風貌だった。
「透くん?どうかした??」
突然会話が途切れ、一点凝視する僕を見て、ユリは不思議そうに聞いてきた。
「あ、ごめんね。何でもないよ、大丈夫。」
笑顔でそう答えながらも、詩織さんの姿が目に焼き付いて離れない。その後のユリとの会話は、本当に申し訳ないのだけれど……。
ほとんど、上の空だった。
▶NEXT:12月14日木曜日 更新予定
ズルい男・透に打つ手なし!?詩織の隣にいた男とは?
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