岡田透、32歳。
身長182センチ、総合商社勤務で独身、半年前にシリコンバレーから戻ってきたばかり。
向かうところ敵なしのスペックを持ち、数々の女性をさらりと口説く透はしばしば、“ズルい男”と言われる。
しかしそんな透に、最近ある変化が起きて……?
―あれ……。あの子帰っちゃうのかな?
今日は表参道の『シカダ』での食事会後、二次会はいつものカラオケ屋に向かっていた。
後ろにいる女性陣をふと見ると、今日断トツに1番可愛かったユリという子が皆の輪から外れて、スマホの画面を見つめているのが気になった。二次会には行かないつもりなのだろうか。
遊び慣れた感じの女性が多い中、ユリは可愛らしく控えめな雰囲気で、僕のタイプどんぴしゃだった。26歳で、大手生命保険会社の事務職らしい。
僕は歩く速度を緩めてユリの隣に行き、こっそり耳打ちした。
「ユリちゃん、ここ抜けて2人で飲み直さない?」
「えっ……。」
突然の誘いに、彼女は不安そうな表情を浮かべて周囲を見渡す。困惑しているが決して嫌がっている表情ではないのを、僕は見逃さない。
「この近くにいいバーがあって。1杯だけ、付き合ってくれないかな?」
「1杯だけ」という言葉に安心したのか、彼女の口元が少し緩んだ。
「……うん、1杯だけなら。」
「よし、決まり!じゃあ信号渡って、反対側のところで待ち合わせね」
僕は先頭を歩いていた幹事の中尾に一言「悪い、先に帰るわ」と告げ、ユリとこっそりタクシーに乗り込んだ。
今日、元々僕は人数合わせで参加していた。ピンチヒッターとしての務めは、もう充分果たしただろうと考えながらー。