渋谷で69年続く焼鳥店に、今でも毎日行列ができるってスゴくないですか

焼き場に立つのは、渡部邦義さん。カウンター左端の席は渡部さんの仕事を間近で見られる特等席

従業員の立ち居振る舞いも、『森本』を語る際に忘れてならない魅力のひとつ。

焼き上がったら1本でも、串はすぐにバットに載せて、「ひな皮です」。客の前に差し出す。鳥で唯一、タレで調味する血きもを食べた後で追加注文すれば、さり気なく、「お皿、お取り替します」。

笹身の注文が入れば、1人が焼き上がりを見計らって山葵をおろし始める。

店には渡部さんや女将を始め、総勢で6名ほどがカウンターの中にいるが、誰もが己の役割をハッキリと自覚しており、微塵も動揺することなく颯爽と働いている。

この安定感。ひとりで飲み食いしていても、この光景さえ見られれば、ほかに何も要らなくなる。

マニュアル、動線、オペレーション――。昨今、様々なレストランで喧しく叫ばれる最善のサービス云々なんてものを軽々と超越して、『森本』は今宵も営まれているのだ。

日本酒は信州飯田の酒。清酒 喜久水¥668

そして、さらに『森本』には焼鳥というシンプル極まりない料理を最高の状態で提供しようと日々を積み重ねてきた、職人のプライドもある。

「いえいえ、いかに美味しく食べてもらうか。ただそれだけですよ。単に丁寧にやっているだけ」

渡部さんはそう言って笑うが、知っている。ずっと付き合う精肉問屋から大山鶏など、状態は抜群の鳥を仕入れて、その日の分を毎朝、串打ちしていることを。そして、やはり長く付き合う炭屋から、大分や宮崎の備長炭を取り寄せ、火を起こして操るためには、卓越したテクニックが必要なことも。

肉の色の濃さを見れば、その鮮度は一目瞭然。まさに職人技

「炭は3段にして使っているよ。これはもう、ウチだけじゃないかな? まずは昨日、残った小さな炭を敷いて、そこに、下から支える熱として太い〝ワリ〞を置いて、直接、焼くための熱には〝ホソ〞。

熱を回すことが大切で、だから団扇で煽いでいる。そうすることで対流が起こり、中までふっくら仕上がる。キレイに焼き上がる」

黒ずみのない美しい串のためには落ちた脂で炎が上って焦げないようにすることも肝要。焼台の左右で火力を調整し、左に笹身など、脂の少ないもの、右にゴンボといった脂の強いもの。『森本』の串はこうして完成するのだ。

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