2011.10.21
次世代を牽引する若手実力派 Vol.4至高の蕎麦は、噛み締めるほどに口中に充満する甘みと風味
充電期間を経ても変わらぬ味。信念を貫き、あの名店が復活
蕎麦通らに愛されたあの恵比寿『玉笑』が、約2年半の充電期間を経て、この7月に復活。渋谷は神宮前の住宅地に、楚々とした佇まいの店を開いた。足灯籠がポツンと灯る白壁の外観は、蕎麦屋というよりは、日本料理店の趣。暖簾をくぐれば、珪藻土の土壁が、温かな雰囲気を醸し出す安らぎの空間が広がる。テーブル3卓のほか、壁に向かってカウンター席を新しく6席ほど設えたのも、ひとり客がより気軽に来られるようにとの、ご主人・浦川雅弘さんの配慮ゆえだ。モダンなインテリアが印象的だった恵比寿の頃と比べ、店の趣は随分と変わったものの、その打つ蕎麦の味わいは、以前とほとんど変わらない。
蕎麦は、茨城県常陸太田市の常陸秋蕎麦。浦川さん自身が、深く感銘を受けた粗挽き蕎麦の名手『慈久庵』の小川宜夫さんの紹介を受けた蕎麦畑から直送。玄蕎麦の状態で仕入れ、丸抜きから製粉までを自身で行なっている。それも、出来るだけ質の良い蕎麦を、良い状態でお客に提供したいがゆえだ。
最近は妙高高原から蕎麦を仕入れたり、女将さんの実家でも栽培を始めたそうで、11月には、手刈り天日干しにした自家栽培の蕎麦が店に登場する予定だ。初めてならば、まずは、粗挽きせいろを試してみたい。ベージュがかったグレーの蕎麦を一箸手繰り、よくよく見れば、白、黒、茶にクリーム色のホシが飛び、それらの粒々をぎゅっと圧縮して固めたような、どこか野趣味溢れる風合い。口にすれば、モチモチとした食感の中、穀物を感じさせる豊かな甘みと風味が、後を追うように湧き上がってくる。やや甘めのもり汁との相性も上々だ。
また、人気のとうふ蕎麦は、実家が蕎麦屋だった浦川さんが、子供の頃によく食べていた賄いの味。それを、アレンジしたひと皿は、蕎麦の旨さはもとより、特別に仕入れる豆腐の味が際立つ秀作。まるで、湯葉のようなコクと香りが、蕎麦の甘みと絶妙に絡まりあい、渾然一体となって喉元をすり抜ける。余韻も豊か。意外な味のマリアージュを楽しませてくれるはずだ。
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