2017.09.21
SPECIAL TALK Vol.36戦前の東京に生まれ、幼少期に戦争を体験
金丸:小林先生は1935年、東京にお生まれですね。
小林:ええ。子どもの頃は戦前ですからね。1941年、小学1年生のときに太平洋戦争が始まりました。
金丸:戦争中もずっと東京にいらっしゃったのですか?
小林:45年に疎開するまでの10年間、東京にいました。東京はどんどん戦火が激しくなって、警戒警報や空襲警報がしょっちゅう発令され、その度に防空壕に駆け込んでいました。
金丸:私が以前、小林先生にトンボの話をしたら「私はギンヤンマはイヤだ」とおっしゃった。
小林:私たちの世代で空襲を体験した人にとって、ギンヤンマって「B29」のことですから。
金丸:そう。その話が私には衝撃的だった。私は無邪気にトンボを追いかけていたけれど、戦時中の子どもたちには、敵国の飛行機がギンヤンマに見えていた。
小林:子どもの目から見た戦争っていうのは、大人とは違うんですよ。生活がどんどん苦しくなって空襲もあるなかで、大人には「この子たちはかわいそうだ」という思いがある。でも子どもにとっては、戦争中の生活が当たり前で、それがすべて。だから、かわいそうでもなんでもない。その中には喜びもあります。
金丸:以前対談したCoCo壱番屋の宗次徳二さんも、子どもの頃非常に苦労されたんですが、同じように「自分が不幸だと思ったことはない」とおっしゃっていました。
小林:大人は編隊を組んで飛んでくるB29を恐れている。一方で子どもは、恐れるどころか「ギンヤンマだ!」ですからね。防空壕から抜け出して2階の窓を開けると、いろいろなものが見えました。アメリカの飛行機に、日本のちっちゃな飛行機が体当たりしていく。日本人のパイロットは、木の葉のように飛行機もろとも落ちていくんだけど、アメリカの飛行機からは落下傘が降りてくる。爆弾が落とされて街にバッと火の手が上がる光景も、今では不謹慎だと思うけど、当時は美しいと感じていた。実体験としての戦争は、やはりフィクションでは表現しきれないでしょうね。
疎開先の山形で、生き抜く力を身につける
金丸:その後、疎開されたんですね。
小林:3月10日の東京大空襲では10万人もの犠牲者が出ましたが、私はその直前の2月に山形の庄内に疎開したんです。
金丸:庄内での生活はどうでしたか?
小林:空襲に慣れておらず、飛行機が1機来ただけで大騒ぎでした。一方、得がたい経験がたくさんありました。庄内は米どころなので、田植えの時期はいくらでも人手が欲しい。すると子どもの私でも働ける場所があって、とくに農繁期はどこに行っても大歓迎されました。それが嬉しくて。山に行けば山菜も採れるし、一生懸命働いて親を養っていました。
金丸:ご両親を養っていたんですか? そういえば以前、小林先生がにこにこしながら「私には母親が3人、父親が2人いるのよ」とおっしゃったのを覚えています。
小林:実の父は2年生のとき亡くなり、父の後妻の兄夫婦が私を引き取ってくれたんです。養父は非常に頭の回る、時代の先を読んで手を打つ人でした。日本橋で家具商をしていたんですが、戦争が始まるとすぐ、火たたき、縄梯子、防空頭巾などの防空資材を扱う問屋を始めまして。
金丸:絶対に必要なものですよね。
小林:商売は好調でした。しかし、空襲で日本橋や銀座が焼けたとき、焼け野原をずっと歩いて養父のお店に行ったら、ドアは破られ、店内はぐちゃぐちゃ。
金丸:空襲と火事から逃れようとした人が殺到したんですね。
小林:ええ。店を守れなかったことを大家さんが養父に謝ると、養父は「それで命が助かった人がいたなら本望です。こんな戦争はもう終わります」と言っていました。
金丸:立派な方だったんですね。
小林:かっこよかったです。こんな大人になりたいと思いました。ただ、その後疎開して田舎暮らしになると、プライドの高い養父は働くことができず。そして、養父の妻である3人目の母は、病気を患ってほとんど寝たきりでした。
金丸:それで、子どもだった小林先生が働くしかなかった、と。
小林:でも辛くはなかったんです。私をもらってくれた養父母に恩返しをしたかったし、自力で生活できるんだ、子どもでも親を養えるんだって自信を持つことができましたから。
金丸:終戦も山形で迎えたんですか?
小林:ええ。玉音放送も聞きました。ラジオのある家に集まって、大人たちは家の中で、子どもたちは外で。うなだれている大人たちを見て、どうやら戦争が終わったようだ、ということはわかりました。小学5年生のときです。
金丸:そこから、世界が一変するじゃないですか。
小林:そうですね。それまでは勲章をいっぱいつけて毎日のように新聞に出ていた指導者たちが、戦争が終わったとたん、一変しました。立派な人たちだと信じていたのに。大人が言っていたのは何だったんだろうって、大人が信じられなくなりました。
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