誘惑する唇:愛される女ほど、駆け引きしない。好きな男の独占欲をくすぐった女の秘密
好きな人と連絡を取らなくなって1週間・・・
真樹は、康史からデートをドタキャンされて以来、この1週間ずっと落ち込んでいた。
康史とのLINEのやりとりは一切ないし、会社で顔を合わせてもあきらかに目を逸らされる。最近では、彼の姿を見ると、胃がキリキリと痛むことさえある。
一方で、竜太と約束した食事の日はどんどん近づいてくる。
どうしてこうも、自分が好きな人とはうまくいかずに、どうでもいい人からは強く求められるのだろうか。
そんな事を考えながら出社早々、真樹は重たい気持ちでパソコンに向かっていた。
「真樹~。ハッピーバースデー!」
同期の美加子が、席に着くなりそう言って笑顔を向けてきた。
「少し早いけど、昨日たまたま見つけて買っちゃったから、誕生日当日まで待てなくて」
真樹の誕生日はまだ10日ほど先だ。だが、そんな細かいことにこだわらないのが、マイペースで大らかな美加子らしいなと思い、真樹もつられるように笑った。
「ありがとう!開けていい?」
彼女から渡されたゲランの紙袋をそっと開くと、そこに入っていたのは「キスキス マット」だった。
「真樹、前に教えたその口紅気に入ってくれてたでしょう?今ね、期間限定でギンザ シックスのゲランのお店で口紅に刻印を入れてもらえるって聞いたから、真樹のイニシャルを入れてもらったの」
たしかに、ケースには真樹のイニシャルである「M.H」と唇のマークが入っている。
「真樹、なんだか最近元気がなさそうだったし」
美加子に顔を覗きこまれて、「あぁ、えっと……」と曖昧な返事を返した。