誘惑する唇:追う恋に疲れた時、好きだと言ってくれる男性に寄りかかるのはダメなこと?
―真樹ちゃん、この前はありがとう。
―今週空いてる日があれば、食事でもどうかな?
木曜の朝。スマホ画面に浮かぶ文字を見て、真樹はため息をついた。
届いていたのは、竜太からのLINEだ。
竜太のことを考える度に、同時に康史の顔が頭に浮かぶ。
―あの相手が康史さんだったら、どんなに幸せだったことか……。
真樹は、何度もそう考えた。
―でも、キスしたわけじゃないし、もう会わなければいいんだし……!
そうやって気持ちを切り替え、なんの後ろめたさもなしに、竜太からのLINEを既読スルーする。
ブロックするほどでもないし、「ちゃんと読んでるけど、返事はしません」という、これもひとつの意志表示のつもりだ。
それに今は、竜太なんかのことよりも康史のことで頭が一杯なのだった。
明日の金曜日は、久しぶりに康史と食事に行く約束をしている。
ゲランで買った口紅「キスキス マット」を使い始めて、初めてゆっくり会える日。康史が何か反応してくれたら良いなと考えて、真樹は浮かれていた。
ちょうどその時、またスマホが震えた。どうせ竜太からだろうと思いながらスマホを見ると、そこには康史からのLINEが届いていた。
―ごめん、明日行けなくなっちゃった。
その一文だけだった。
このLINEに真樹は、言いようのない違和感を覚えた。