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  • 誘惑する唇 Vol.2

    誘惑する唇:偶然再会した夜、男が衝動的にキスしようとしてきた理由は?

    お店を出て、中央通りを銀座4丁目方向に向かって並んで歩いた。

    22時半の銀座、中央通りは多くのタクシーが走っている。

    歩く人は多すぎず、少な過ぎず。ぼんやりとした灯りがついた無人のお店の前を、いくつも通り過ぎた。

    「歩くって、どこに行くの?」

    真樹が聞いても、竜太は「ちょっと」と言うだけできちんと答えてくれない。お店にいた時とは違って、なんだか少し無口なような気もする。

    「俺ね、夜の銀座を歩くのが好きなんだよね」

    銀座3丁目の交差点を過ぎたあたりで、竜太がぽつりぽつりと喋り始めた。たわいもない話を続けながら歩き、銀座2丁目の交差点を有楽町の方に渡った。

    「真樹ちゃん、目黒だよね?とりあえず有楽町の方に行こうか」

    竜太はそう言うと、急に足を止めた。銀座から有楽町に向かう道、小さな通りと交差する場所で。

    それと同時に真樹は腕を掴まれ、気がつけば竜太と向かい合っていた。そして何事かと考える暇もなく竜太の手が頬に近づいてきて、そっと触れられた。

    ―え、何……?!

    言葉にすることもできないくらい、急で一瞬だった。


    真樹の唇と竜太の唇が、あと数十センチで重なろうとする瞬間、真樹は竜太を突き飛ばした。

    「ちょっと、何するのよ!」

    思っていた以上に大きな声がでて、真樹は自分で驚いた。

    「あの、ごめん。真樹ちゃんの唇があまりにも魅力的だったから……」

    竜太も驚いているようで、その答えはしどろもどろだった。

    「魅力的」と言われるのは嬉しいことだ。キスされるのだって、相手が好きな人だったらこれ以上嬉しいことはない。

    だが、相手は特に好きでもない男・竜太だ。そんな男からのサプライズのキスなんて、迷惑以外の何ものでもない。

    「あなたのこと、せっかく見直したとこだったのに」

    ―せっかく、そんなに嫌な男じゃないかもって、思ったところだったのに。……やっぱり最低!

    驚きと怒りで、頭の中が混乱した。言いたいことは沢山あったが、声にすることはなかった。

    ギリギリで、キスはしていない。していないのに、なぜだか真樹の胸の中は、会社の先輩・康史に対する罪悪感で一杯だった。

    康史と付き合ってるわけでもないのに。

    真樹は、きっと康史も自分のことを好きでいてくれてると信じている。もしかしたらただの思いあがりかもしれないが、それでも真樹は康史への後ろめたさを感じずにはいられなかった。

    まとわりつく罪悪感を振り払うように、竜太を残して走りだした。細い9cmヒールを履いていることも忘れて、衝動的に足が動いた。

    「真樹ちゃん、待って……!」

    竜太の声が聞こえたが、真樹は一度も振り返ることはしなかった。


    ▶NEXT:8月24日 木曜更新予定
    竜太とのキス未遂。これがこの後、康史との関係を壊すことになる……?!


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