にゃんにゃんOLの趣味は資格取得
「昨日の人たちの中で良い人はいなかったわけ?」
「それが、一人だけすっごく素敵な人がいて。2つ上の和樹さんって人なんだけど、慶應卒の爽やかイケメンで、実家が中目黒にあるって。最高じゃないですか?」
待ってましたとばかりに目を輝かせて愛華が嬉しそうに教えてくれるが、こちらはそんなスペックを聞いても、何も響いてこないのが残念である。
「愛華ってさ。本当に商社とか慶應とかが好きだよね。」
彼女たちのゴールは、いかに“良い会社(=良い給料)”の人たちと結婚できるか。東京出身で、高学歴な人たちは大歓迎だ。
「でも昨日の和樹さんは特にカッコよかったんです!アリサさんは分かってないなぁ〜。」
白のオフショルダーに、綺麗に巻かれたミディアムヘア。その合間から揺れるピアスをぼんやりと見つめる。
「あと、私この前受験していたフラワーアレンジメント講座2級に合格したんです。次は何の資格を取ろうかなぁ。」
これも典型的なにゃんにゃんOLの特徴である。
彼女たちは、“資格取得”が大好きだ。
英検、秘書検定など役に立つものから、フラワーアレンジメントやフードマイスター、発酵講座に◯◯美容検定など。感心するくらい、次から次へと新しい資格を取得している。
「それってさ、何かの役に立つの?」
アイスティーに飽き、昼だけれども白ワインのグラスを頼もう。店員さんを待つ間、愛華の行く末を案じずにはいられなかった。
愛華の会社は日系のCMもよく流れているような大手損保会社で、知らない人はいないだろう。
福利厚生も手厚く、有給もしっかり取得できる。また、近年の時流に乗る前から18時の定時で帰れることでも有名な、優良企業である。
就職活動中、愛華はすんなりと内定を決めてきた。
可愛らしい雰囲気と細やかな心遣いができる愛華は、昔から皆に好かれている。企業側からすると、欲しい人材だったのだろう。
そんな愛華自身も、最初はOL生活を心底謳歌していたようだった。
「定時に帰れる上、仕事も楽でお給料も貰えてラッキー。」
「うちの会社、社内恋愛も多くて。楽しいんだよ。」
そんな話をよく聞いていたが、ここ数年で、彼女は彼女なりに悩んでいるように見える。
「このままOLを続けていても、限界値が見えてきた気がする。だから私、結婚したいの。」
キンキンに冷えたシャルドネが、喉にすっと染み込んでいく。
大人になれば、皆自然に結婚できると思っていた。しかし大人になり、それは当たり前のことでなかったことに気がついたようだ。
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