人形町の女 Vol.7

人形町の女:あなたとの結婚は、“失敗”だった。そう、確信した夜

結婚して家を買い、そして子どもを授かる。

今まで「幸せ」だと信じて疑わなかったもの。

しかしそれを信じて突き進んでいくことが、果たして幸せなのだろうか?

外資系化粧品会社でPRとして働く祐実、29歳。

結婚生活3年目。夫の浮気が発覚し、人形町へ引っ越した祐実。昇進も決まり、一人で前祝をしているとき、ある男に出会う


『イレール 人形町』で再会した男は、寛と言った。

濃い眉毛に彫の深い顔立ちで、体は大きいがとても繊細そうな男だ、と祐実は思った。

「へぇ、最近人形町に引っ越されたんですか。でも何でまた、突然?」

その問いかけに、祐実は何も返すことができなかった。すると、寛はすぐに話を変えてくれた。

「……いろいろありますよね。僕は妻と別居してちょうど1年。前は中目黒に住んでいたんですけど、気分転換に、東京の東側に住んでみようと思って」

妻と別居してちょうど1年。その言葉が、強く祐実の頭に残る。

「中目黒も悪いところじゃないですけどね。僕はこっちのほうが断然住みやすいですよ。中目黒って雰囲気勝ちみたいな感じしません?前にネットで読んだ記事に書いてあったんですけど、東京って男性は東側、女性は西側に住むらしいですよ。分かる気がするなぁ……」

寛はそこまで一気に喋り、スマートフォンを取り出してその記事を見せてきた。身を乗り出して勢い良く話す姿に思わず笑うと、彼はスマートフォンをテーブルに置いた。

「ようやく、笑いましたね」

そして、こう続けた。

「笑った方が素敵ですよ」

その言葉に何と言っていいか分からず、思わずうつむいてしまう。

「……すみません。でも、僕はまだ結婚している身だから」

そして少し真面目な表情になってこう言うのだった。


「祐実さんを口説こうと思っても、口説けない」


少しおどけてそう言った寛に、また笑ってしまう。不思議な男だと、思った。

【人形町の女】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo