赤坂の夜は更けて Vol.13

年の差、12歳。素直に「好き」と言えぬ事情が、女にはある

夜更けの赤坂で、女はいつも考える。

大切なものは、いつも簡単に手からすり抜けてしまう。

私はいつも同じところで立ち止まり、苦しみ、前を向こうとして、またつまずく。

29歳、テレビ局の広報室で働く森山ハナは、ひと回り年上のプロデューサー・井上と出会う。

井上が女性と歩いている姿を見て荒れるハナは、男友達と飲んで気分を晴らそうとする。


高校時代からの男友達と飲んだ帰り道。

ハナは、渋谷から歩いて代々木公園の自宅を目指していた。夏の夜の散歩は、とても気持ちが良い。

―ハナ、どこにいるの?

スマートフォンを見ると、渉君から連絡が入っていた。今日は、早く帰ってきたようだ。

―今渋谷から帰ってるよ!

返信を打っていると、今度は着信が入る。

“井上さん”

スマートフォンの画面をじっと見つめながら、その着信に出ようかしばし頭を巡らせる。井上さんの声を一刻も早く聞きたいのに、それに出るのは躊躇われる。

井上さんが女性と2人で歩いているのを見て、裏切られた気分になっていたのだ。


―私のこと、散々好きって言っていたくせに。


自分のことは棚に上げて、そんな風に思ってしまう。10回ほどコールが鳴ったあとで、ようやくその電話に出る。

「もしもし、ハナ?良かった、出てくれて」

しかしハナは、何も言葉を返せない。

「元気してたか?」
「……」
「どうした?」

元気じゃない、井上さんのせいですっかり元気じゃない。

そう言ってしまいたかったけれど、これまでの自分の身勝手さを考えると、何も言えない。

しかし結局、来週の金曜日に会う約束をして、電話を切った。

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