2017.06.21
SPECIAL TALK Vol.33高校在学中、貧乏生活に転落
金丸:高校はそのまま慶應に進まれたんですか?
淺野:はい、埼玉県の慶應義塾志木高等学校に。実家から近かったし、志木のほうが内部進学しやすいといわれていたので(笑)。
金丸:高校時代はどんなふうに過ごしていましたか?
淺野:ゴルフ部のマネージャーをやっていました。でもそれも高校2年まで。突如、父が倒れてしまって。
金丸:病気になられた?
淺野:脳血栓です。私は3人兄弟の長男ですが、まだ高校生だったから後を継ぐことはできない。同族経営の会社だったので、これをきっかけに大混乱ですよ。
金丸:次期社長を誰がやるかということですね。
淺野:父は一命を取り留めましたが、倒れている父の枕元で、いきなり後継者争いが始まって……。それまで3代目としてちやほやされていたのに、みんな一気に手の平を返した。このとき「ああ、世の中はこうなっているんだ」と思いました。
金丸:で、会社はどうなったんですか?
淺野:ずっともめ続けて、結局15年ぐらいごちゃごちゃしていましたね。オーナーシップはもう一族から離れていますけど、会社はいまも存続しています。
金丸:そうなると、生活も一変したのでは?
淺野:一気に貧乏になりました。会社は生活費も学費も一切出してくれないどころか、父の半身不随のリハビリに月40万ぐらいかかるという状況で。ただ、うちは母がまた変わった人で、「みなさんの世話にはなりません」って家を飛び出して、商売を始めたんです。
金丸:もともと何か商売をされていたんですか?
淺野:いや全然。普通の社長夫人ですよ。母は料理はできなかったけど、麻雀はできた。それで麻雀店を始めたんです。
金丸:えっ!! いきなり(笑)。
淺野:ですよね(笑)。それからは放課後に弟たちと3人で麻雀店の手伝いをすることになって、毎日牌を磨いていました。営業が終わると、家まで車で帰っていたんですけど、ある雨の日、車が途中でエンストしてしまって。どうにも直らず、夜中にずぶ濡れになりながら、車を押して帰ったんです。そのとき悔しさとか情けなさとか、いろんな感情がだーっと込み上げてきて「俺がもう一度、淺野家を再興しなきゃいかん」と。絶対に自分で事業をやろうと心に誓いました。
ハワイに行きたかったから旅行代理店を始める
淺野:大学は慶應の商学部に進学したんですが、ずっと商売のことを考えていましたね。当時、私は海外、とくにハワイに行きたくてしかたがなかった。だから必死にお金を集めて、初めてハワイに行きました。
金丸:どうでした、ハワイは?
淺野:最高でしたよ。完全に魅了されて、毎年ハワイに行きたくなった(笑)。
金丸:でもお金が。
淺野:そう、お金が。そんなとき、本屋で『マーフィーの成功法則』という自己啓発本を見つけたんです。開いてみたら、1行目に「人は自分がなりたいものになっていく」と書いてある。「なるほど、わかった」と本を閉じて、読んだ気になりました(笑)。
金丸:早いですよ(笑)。「はじめに」だけで、全部わかったって(笑)。
淺野:なりたいものになれるっていうんだから「俺は毎年海外に行くぞー」と思っていれば、行けるようになるはずだと。でもお金がない。そこで、ひらめいたんです。
金丸:何を?
淺野:旅行代理店を作って自分が添乗員になれば、旅行者と一緒に海外に行けるじゃないかって。それですぐに学生向けの旅行代理店を立ち上げました。
金丸:すごい行動力ですね。
淺野:旅行業法もゆるやかで旅行代理店の規制もない時代だったから。それからは、どうやって人を集めればいいか作戦を考えましたね。ひとつは慶應をはじめ、いろいろな私立大学に支部を置いて学生に声をかけたんだけど、その際目を付けたのが、内部進学者。彼らには独自のコミュニティがあるので、1人が行くとなれば周りの人間も一緒についてくる。もうひとつは、参加者を10人集めれば1人の旅費をタダにするというもの。その代わり、タダになった学生はちゃんとほかの人の面倒を見るというのが条件。そうしたら予想以上に繁盛して、多いときには500、600人もの旅行を扱ったりしていました。
金丸:それはすごい。アイデアの勝利ですね。
淺野:お金がない分、企画力で勝負するしかなかった。頭を使うだけならタダですからね。ほかにも、母が経営する麻雀店は日曜が休みだったので、遊ばせておくのはもったいないと、大学対抗の麻雀大会を開いたりしてました。貧乏に変わりはなかったけど、いろんな企画を考えるのが楽しくて、大学にはほとんど行きませんでしたね。1日も早く社会に出て事業をやりたいと思っていました。
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