ドクターラバー Vol.1

ドクターラバー:医者と結婚したい一般OL。出会い続けるための、ある法則


遡ること、2年前


―お医者さんとのお食事会、決まったよ。来週金曜、20時に麻布十番ね。

睡魔と戦いながら書類整理をしていたところに、会社の同期の里帆からLINEメッセージが届いた。かすみの目は、一気に覚める。

―ありがとう。どこの大学出身の人たちかしら?

すぐに返信すると、1分とたたずに、里帆から返信が来る。

―慈恵医大だよ!

やった、とかすみは口の中でつぶやき、そっと笑みをこぼす。里帆には満面の笑みを浮かべるウサギのスタンプを返しておいた。

「私もだいぶ、ドクターラバーが板についてきたな…」

ドクターラバーとは、交際相手として、医者をターゲットに絞る女性のことだ。

同期の里帆など、年季の入ったドクターラバーだ。大学2年の20歳そこそこから26歳にいたる現在まで、東京で参加してきた医者とのお食事会は、優に100回を超えるらしい。

かすみは里帆の影響を受け、ここ数年でドクターラバーへと変貌を遂げた。

千葉出身で地元の国立大学を出たかすみは、もともとは「学歴や年収がある程度良い人といつか結婚できたらいいな」というくらいの軽い願望を持って、都内の日系の大手証券会社に一般職として就職した。

そこで、同期の里帆と出会った。秘書課に配属された彼女は、申し分ない容姿を持っていた。

色白で整った清楚な顔立ち。ぱっちりとした意志の強そうな目。肩付近で切りそろえられた、艶やかな黒髪。

いつも何か含んだような笑みを浮かべている表情が、印象的だった。

かすみはなぜか里帆に気に入られ、入社以来仲良くしている。里帆に連れられて医者とのお食事会に数多参加するうちに、医者に婚活の焦点を絞るようになったのだ。

―今回のお食事会のお相手、東京の私大出身者で良かった。

かすみは再び、ふっと笑みをもらす。

慶應大、慈恵医大、順天堂大など東京の私大出身の医者は、家柄が良い者も少なくない。親からの援助を受けている場合も多く、タクシー代を出してくれるなど、羽振りがいい傾向にあるのだ。

一方、地方国立大の出身となると、あまり気が利かないのが玉にキズだ。

大学時代を比較的地味な価値観の中で過ごしているせいか、お店選びのセンスが微妙だったり、タクシー代を出すといった気遣いはあまり期待できない。(むろん、頭はいいのだが…)

そんな背景があり、かすみは慈恵医大と聞いて、心を弾ませたのだ。

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