2017.06.15
ドクターラバー Vol.1医者を好み、医者と付き合い、結婚することを目指す。
そんな女性たちを、通称「ドクターラバー」と言う。
日系証券会社の一般職として働く野々村かすみ(28)も、そのひとり。
彼女たちはどんな風に医者と出会い、恋に落ち、そして生涯の伴侶として選ばれてゆくのだろうか?
医者とドクターラバーたちの恋模様は、一筋縄ではいかないようだ。
ずっと恋焦がれていた、ヴァージンロードを歩く日。
重たそうな木の扉が、厳かにゆっくりと、開く。
正面のステンドグラスから差し込む光で一瞬目がくらんだ後、一気に視界が開ける。
かすみの目には、ヴァージンロードの両脇に並ぶ人々がこちらを見つめながら、一斉に拍手をくれているのが映る。
隣で組まれた父の腕が、わずかに震えている。緊張なのか、感極まっているのか。どちらだろうか。
扉の前で、かすみは父とともに、深々と一礼をする。そして、一歩一歩ふみしめるように、父と赤い絨毯の上を並んで進む。
ずっと、恋焦がれていたこの瞬間。けれど、現実になった今、意外にも頭の中はかなり冷静だった。
中ほどまで歩いたところで少し顔を上げると、目の端に、里帆が映った。目を真っ赤に潤ませて、嗚咽をこらえるように肩を震わせている。
―泣き虫なんだから。
かすみの顔に、思わず笑みがこぼれる。
そのまま顔を正面に向けると、光の先で、彼がこちらを優しく見守っているのが見える。
彼の目には、一点の曇りもない。穏やかな顔つきで、隣に並ぶのを待ってくれている。
かすみは彼に向かってほほ笑みかけながら、ふと、2年前のことを走馬灯のように思い出していた。
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