2017年、東京での“当たり前”な出会い方。
それは社内恋愛でもお食事会でもなく、間違いなくマッチングアプリだ。
しかしオンライン上での出会いに、抵抗を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更だ。
商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。
―マッチングアプリなんて、私には関係ないわ。
そう思っていたある日のこと、桃香の価値観を揺さぶる、ある出来事が起こる。
「このスタンプ、何かしら…」
恵比寿駅の西口改札を出た瞬間、iPhoneに表示されたLINEのメッセージを見て、桃香は思わずつぶやいた。
―桃香ちゃん、休みの日は何してるの?
そのメッセージの下には、女性の間では大人気のゆるキャラのスタンプ(ピンク色の可愛らしいうさぎ)が動いていた。
相手は、先週の食事会で出会った外資系投資銀行勤務の男だ。トライアスロンが趣味だと言う彼は、男らしくスマートで、桃香のタイプどんぴしゃだった。
出会ってから毎日LINEし、ようやくデートに誘われるかと思いきや、このスタンプが送られてきて、一気に返す気が失せた。男性が可愛らしいスタンプを使うことに、桃香は激しく違和感を感じる。
最近、本当にいい出会いがない。
歳を重ねて、ハードルが上がってきているのだろうか。
総合商社の秘書として働き初めて丸8年。一般職ではあるが、同年代のOLたちに比べたら充分過ぎる給料をもらっている。そして何より、桃香はトップクラスの美女だ。
「清楚な美人」
桃香を一目見た人間は、大抵そんなイメージを抱く。艶やかに染められた栗色のロングヘアに、ぱっちりとした二重。そして透き通るような白い肌が、一層その美貌を際立たせている。初対面の人には、「佐々木希に似ている」とよく言われる。
恵比寿南方面に線路沿いを少し歩き、今日の女子会の場所『ノック クッチーナ ボナ イタリアーナ』を目指す。
今日は、いつもの4人で女子会だ。と言っても、なかなか予定が合わず、全員揃うのは3ヶ月ぶりだった。
皆容姿に恵まれ、かつ彼氏がいない。桃香にとって、最強の女友達だ。
―いい男って、本当にいないものねぇ…。今日は、みんなに話を聞いてもらわなくちゃ。
そう思うと、歩く足が自然と早まった。
この記事へのコメント
まぁ地雷も多いけど…