2017.06.07
マッチングアプリは、必然に。 Vol.1桃香は先月、30歳になった。
元彼のケンとは、1年前に別れたばかりだ。大手広告代理店に勤めていたケンは、見た目もノリも良く、いつも皆の中心にいるようなタイプだった。しかしその分女友達も多く、付き合っている最中、何度も喧嘩した。
ケンと別れてからの1年、食事会に行ってはいるものの、未だ彼氏はいない。
◆
『ノック クッチーナ ボナ イタリアーナ』に着くと既に皆揃っており、何やら話しこんでいるようだった。
メンバーは、大学時代からのサークル仲間である亜美と聡子、2つ年下の後輩・茜だ。
この4人は「ゼロ次会」というLINEグループを作って、しょっちゅうやりとりしている。グループ名は、食事会の前に皆で頻繁にゼロ次会をしていたからだ(そしてそれが一番盛り上がる)。
「お待たせ。久しぶりね」
桃香がFENDIのパウダーブルーのピーカブーを置いて席に着くと、開口一番、亜美が口を開いた。
「桃香、報告があるの」
幸せそうな亜美の笑顔を見て、その“報告”の内容は、すぐに想像がついた。そしてこの瞬間、桃香の“いい男がいない”話は封印する。
「…彼ができたの??」
「当たり!!」
来た店員にシャンパンを頼み、桃香は「どこで知り合った人?」と姿勢を正して聞いた。その質問に、他の2人はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。おかしいなと思っていると、亜美は桃香の耳元でこう囁いた。
「実はね…。ペアーズなの」
「えぇー!?」
桃香は、思わず叫んだ。
ペアーズは、何度か耳にしたことがある。しかしそれは、別次元に存在する世界のものだと思っていた。この“ゼロ次会”のメンバーがまさか、マッチングアプリで彼氏を見つけるなんて。少し、裏切られたような気分だ。
しかし亜美の彼氏がどんな人物か、大いに興味はある。桃香が「どんな人なの?」と聞くと、亜美は嬉しそうにFacebookの写真を見せてくれた。
“新田 進 弁護士 千代田区在住”
「え!?弁護士さんなの?」
桃香が聞くと、亜美は「そうなの」とはにかんだ。グランドキャニオンを背景に写っているその男はイケメンではないが、癖のない爽やかな顔立ちで、私服もなかなかお洒落だ。
すると、亜美の隣にいた茜がおずおずと「実は私も…」と切り出した。
「実は私も、タップルっていうアプリで知り合った人と、デートしてるんです」
「えー!?茜も……!?」
“タップル”は初耳だったが、どうやら共通の趣味でつながるマッチングアプリらしい。
「2人とも、良かったわね。でもそういうアプリ、私はちょっと……」
2人の幸せそうな話を聞くのは嬉しいが、マッチングアプリで彼氏を探すなんて、桃香は絶対に嫌だった。
登録している男性は女性に不慣れだろうし、例えうまくいったとしても人には言いたくない。抵抗を示す桃香に、亜美はこう言った。
「最初は少し抵抗あったけど、色んな人とデートできるから楽しいわよ」
「亜美は、何人くらいとデートしたの?」
「今の彼で、7人目かな」
―7人ねぇ…。
食事会だったら、2回行けば出会える人数だ。頭の中で咄嗟に計算をする。するとそれを察したかのように、亜美は続けた。
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