楽しいはずの社内ランチが、冷や汗ものに!?
翌日のランチは、オフィスのある渋谷ヒカリエ8階の『d47食堂』にした。ここでは月替わりで、様々な地域の定食メニューが楽しめる。今日は「長崎定食 松浦港のアジフライ」を食べようと、朝から楽しみにしていた。
「メイ、こっちだよ」
そう言ってメイに手を振ると、その横には真希がいた。
―真希!?今日は外出だって言ってたのに…。
「耕二先輩♡」
そんな耕二の動揺も知らず、目をハートマークにしながらメイが話しかけてきた。好意を寄せられているのには薄々気づいていたが、今日はいつもよりアピールが激しい気がする。
真っ赤なVネックのニットを着ているメイは、見るからに強そうだ。一方の真希は、ざっくりとした白ニットのセットアップで楚々とした雰囲気。この2人は対照的なタイプだが、最近仲がいいらしい。
「あれ、耕二先輩、固まっちゃって。どうしたんですか??」
メイが不思議そうな顔で覗きこみ、2人は席についた。
「耕二先輩、この間連絡した件、どうなりました??」
メイの言葉に、食べかけのアジフライをむせそうになる。この間の件とは、耕二の好きなバンドのライブのチケットが取れたので、一緒に行こうという誘いだった。
「あの週、ちょっと予定が分からなくてさ…。」
そう答えると、メイは「3ヶ月も先の予定が埋まってるんですか?」と訝しげな表情をする。すると、横にいた真希が突然切り出した。
「私…。」
何を言い出すのだろう。すると、「デザートも頼んでいいですか?」とぶっきらぼうに聞いてきた。
―まずい、これは相当怒っているぞ…。
真希は甘い物が大好きだが、普段は節制していて、滅多に食べない。毎日寝る前に腹筋と腕立て伏せを100回ずつするような女だ。これは、相当な危険信号だ。耕二は、冷や汗をかいた。
「もちろん、いいに決まってるじゃん!今日は耕二先輩の奢りだよ♡」
何も知らない(はずの)メイが、能天気な様子で返してきて、耕二は「も、もちろん」と答える他なかった。
◆
「真希、さっきはごめんな。突然、驚いただろ?」
2人と別れてから、耕二は速攻でLINEを送った。こういう火消しは早いに越したことはない。真希が大好きなうさまるのスタンプも一緒に送る。こんなこと、俺たちの仲を揺るがすようなことではない、と言い聞かせながら。
しかし、その切ない思いに反するように、昼休みが終わっても真希からの返信はなかった。