不安でスマホを握りしめる耕二。それが震えたのは…?
返信がない、というのはやはり怒っている証拠だ。付き合ってからというもの、朝の出勤時、昼休み、仕事が終わってから。常にLINEで連絡を取っていたのだ。
こういうときは、自分の思いを真摯に伝える以外に方法はない。付き合うときも、耕二はしつこくアタックし続けようやく振り向いてもらったのだ。
ランチをした月曜からずっと無視され続け、不安で握りしめていたスマホが鳴ったのは、金曜の23時だった。
「明日、20時からだったら空いてるよ」
耕二が再三送っていた「土曜日、デートしよう」という誘いに、真希はようやく応じてくれた。
デートは、渋谷ヒカリエ11階にあるイタリアン『THE THEATRE TABLE』を予約した。
駅で待ち合わせて渋谷ヒカリエを目指すと、真希は目を丸くした。
「え?オフィスだよ?誰かいたらどうするの?」
「いいの、いいの」
このレストランの一面に広がったガラス窓からは、渋谷が一望できる。平日は会社の人に会う確率が高いのでなかなか来られなかったが、一度真希と来てみたかったお店だった。真希とのことは本気なのだ。もう誰にバレたって構わない。
食事中、真希は何事もなかったかのように接してくれた。折角の食事中だ。喧嘩はしたくないのだろう。真希は頑固だが、基本的には賢くて優しい子だ。
料理を楽しんだ後は、同じ階にあるスカイロビーを少しうろついた。目の前に広がる渋谷の夜景を、真希はじっと見つめる。
「ここに来ると、渋谷の空はこんなに広かったんだな、って思うの。今でも嫌なことがあったらよく来るんだ」
そう話す真希の横顔を見ると、胸がしめつけられるようだった。
「真希…。ごめんな」
耕二は本当に申し訳ない気持ちになって、蚊の鳴くような声で言った。すると、真希もじっとこっちを見つめてこう言った。
「私こそ、ずっと無視してごめん。ちょっと、やきもち焼いちゃった」
やきもち…!耕二はその意外な言葉に、思わず真希の手をにぎり、額を近づけた。
その瞬間だった。
「マキ!?」
声の主は、メイだった。
「え!?2人で何してるの?」
耕二は、真希の手をぎゅっと握り、こう言った。
「俺たち、付き合ってるんだ。」
メイは、ぽかんと口を開けていた。
◆
その後、2人の付き合いは社内中にバレてしまったが、真希が堂々としているせいか、からかわれることもなく優しく見守られている。
耕二と真希は、今でも渋谷ヒカリエで仲良くLINEを送り合っているようだ。
―Fin.