―このまま東京にいて、いいのかな……?
地方から上京した者の多くが一度は考える、地元に帰るか、このまま東京に居続けるか。
女性であれば結婚適齢期もシビアに考え、その悩みはより深くなるもの。
この物語の主人公・春菜(28歳)もその一人。
東京にいる意味を見失い、自信を失くしかけていた時、恋人の亮太からプレミアムなデートに誘われて……?
東京と地元……。居場所を探して悩む28歳
「2月に東京で桜?」
春菜は思わず大きな声を出してしまい、慌てて口に手を当てた。
今日、春菜は付き合って2年目になる彼・亮太に誘われ代々木VILLAGEへ行くため代々木駅で待ち合わせしていた。そこで、会って早々言われたのだ。
「東京で1番に桜が見られる、とっておきのデートだから」
亮太は得意気に言った。だが、春菜は素直に喜ぶことができずにいた。
恵比寿の歯科医院で歯科衛生士をしている春菜。静岡出身の28歳で、東京での暮らしをそれなりに楽しんでいる。だが、30歳を意識するようになり、ある悩みがでてきた。
春菜としては、亮太との結婚も視野に入れて付き合い始めた。亮太は5歳年上の33歳。大手機器メーカーで働く、誠実な男だ。結婚について口に出して聞いたことはないが、当然彼も考えてくれていると思っている。
だが、亮太の口からは結婚をにおわせるような言葉は一切出てこない。春菜としては、このまま数年間だらだら付き合うつもりもない。
―亮太にとって、私は本当に必要なのかな。
―私が東京にいる意味って、何だろう。
そんな考えが出てくるようになった。いっそのこと、静岡に帰って地元で相手を探した方がいいのでは、と思うことさえある。
亮太のことはもちろん好きだ。誠実で優しく、笑った時に顔をくしゃりとさせて思い切り幸せそうな顔をする。その顔を見ただけで、春菜の心はふわりと軽くなり、安心できる。
だが、不満もある。亮太はあまりにも忙し過ぎるのだ。突然の出張が入る事も多く、デートのドタキャンにも慣れてしまった。
―仕事だから、仕方がない。
ひとつ一つはそう思えても、何度も繰り返される内、春菜本人も思っている以上に不満が溜まっていったのだ。
だから実は亮太が、ある約束を果たすためにこのデートを考えたのだということを、この時の春菜は思いもしなかった。