「去年の約束を果たしたくて」男が語る、秘めた想い
「春菜、今日は楽しんでくれたかな?実はさ……」
亮太はティーカップを置き、急にかしこまった声を出した。その様子を見た春菜は、何か嫌なことでも言われるのかと、一瞬身構える。だが、亮太の口から語られたのは、予期せぬ言葉たちだった。
「去年、俺たちが付き合い始めて最初の春で、目黒川にお花見に行く約束してたよね?でも急に2週間の出張が入って結局行けずじまいで、俺たちまだ一緒に桜を見てないんだよな」
春菜がとっくに忘れていた事を持ちだし、亮太はゆっくり丁寧に続けた。
「春菜が、地元の静岡には桜の名所が沢山あって、春にそれを見に行くのが毎年の楽しみだったって言ってたから、春菜にとって桜が特別なものだとは知ってた。でも、俺が出張で行けなくなったって言った時も、本当はすごく落ち込んでたはずなのに、仕事だから仕方ないよって笑顔で言ってくれたよね。ありがたかったけど、それがずっと気になってたんだ。だから、今年は東京で1番最初に、一緒に桜を見たかった」
春菜は、まさか亮太がそんなに気にしてくれていたとは思いもせず、熱い気持ちが胸に込み上げてくるのを感じた。鼻の奥がツンとして、視界が少しだけ滲む。
「ありがとう」
その一言しか言えなかったが、春菜の少しだけ赤く染まった鼻先と目元を見れば、彼女が心から喜んでいることは亮太にも十分伝わった。
―ちゃんと大切に考えてくれてるんだ。
東京に、自分を必要としてくれている人がいる。その思いで春菜の胸は満たされた。さらに、今日の料理を食べて密かに感じたこともあった。
今日食べた料理のすべてに、静岡産の素材が使われていた。
静岡で育った野菜が、東京のど真ん中で見事な料理へと昇華されている様に、自分の姿を重ねずにはいられなかったのだ。
「私も、私らしく、東京で輝く自分になるんだ」
上京して10年。当たり前になった東京での生活。
忘れていた気持ちを、春菜は思い出していた。
桜の下での、新たな決意
亮太と並んで出口へ向かっていると、春菜は名残惜しそうに足を止め、桜を見上げながら呟いた。
「今日はありがとう。今年はあと何回、桜を見られるかな」
「うーん、何回だろう。また出張入っちゃうかもしれないからなぁ……」
そう言って亮太は眉毛を下げて困った顔をしたが、さらに続けた。
「もし、今年はもう見れなくても、来年もその次の年も一緒に見よう」
その言葉を聞いた春菜は、亮太の横顔を見上げながら、彼の手をぎゅっと握った。
(Fin.)
■イベント情報
『DINING OUT SPECIAL SHOWCASE in 代々木VILLAGE』
開催場所:代々木VILLAGE内 『code kurkku(コードクルック)』
実施期間:開催中 〜2017年2月17日(金)まで
ランチ :12:30~ 10,000円(税込)/お一人様(ペアリング・ドリンク付き)
ディナー:18:30~ 25,000円(税込)/お一人様(ペアリング・ドリンク付き)
※各回計36名限定(完全予約制)
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