結婚できない女 Vol.2

結婚できない女:”いい女”を演じるほど結婚は遠のく!29歳、愛を忘れた女の誤算

翌朝10時。里子は智也のマンションのエントランスで、ひとり立ち尽くしていた。インターホンを鳴らしても、中にいるはずの智也が出ないのだ。

里子の手には、付き合い始めの、まだ智也が今よりも誠実だった頃にもらった合鍵がある。これで勝手に入ることもできるのだが、なんとなく嫌な予感がする。

帰った方が良い。いつもの里子なら、そうしていると思う。しかし昨日の絵梨の言葉が、里子をけしかける。

ー都合のいい女のままでいいの?

里子は唇を噛みしめ衝動的に、オートロックの扉を開けた。


愛されないのは、愛していないから。


「…何で勝手に入ってきたの?」

どう考えても非があるのは智也のはずだが、彼は里子に仏頂面で言った。

自分のしたことを棚に上げ、意に沿ぐわぬ行動をした里子を責める、自分勝手な男。その顔を見て里子は、「100年の恋も冷める」とはこのことを言うのだな、とやけに冷静に思った。

案の定、部屋には別の女がいたのだ。25,6歳だろうか。里子とはまったくタイプの違う、派手で気の強そうな女。

その女は、部屋に入ってきた里子を一瞥した後、「もう連絡してこないで」と顔に似合わぬドスのきいた低い声で智也に告げ、ドアを荒々しく開けて出て行ってしまった。

後に残された里子と智也の間には、時が止まったように重苦しい沈黙だけが流れた。謝る素振りも見せずふてくされている智也に、冷たい視線を送りながら里子は思う。

私は彼を、智也を愛していただろうか。結婚の2文字に目が眩み、彼のスペックばかりに目をむけて彼の本質を愛してなかった。だから、私も愛されなかった―。

智也の弱さも、ずるさも、本当は全部知っていた。それを見て見ぬフリをしてきたのは他でもない里子自身で、自ら都合の良い女に成り下がっていた。それにようやく気が付いたのだ。

「…私、都合のいい女ではいられないの。さよなら。」

小さな声しか出なかったが、智也の目を見てはっきり告げ、里子は家を出た。智也は、追いかけてこなかった。

マンションのエントランスに、カツカツとヒール音が響く。その音はいつも通りリズミカルで、里子に安心感を与えた。

ー都合のいい女はもう、やめる。

妙に清々しく、すっきりした気持ちで智也のマンションを後にしたその時、LINEの着信音が鳴った。

「来週、食事でもどう?」

捨てる神あれば拾う神あり、だ。

それは望月からの誘いだった。


▶Next:2月1日 水曜更新
わかっていても、つい…。港区に生息する、提案してしまう女。


【これまでの結婚できない女】
vol.1:24時からの誘いに乗る女は、“立ち食いラーメン”の価値しかない

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
二兎追う者は一兎をも得ず、ですな😃 ハイスペだから2人以外にも女はいるかも知れないけれど、一緒に居ても幸せになれなさそうな男……。
2020/10/06 13:450

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