女には、欲しいものを手に入れる方法が、もう1つある。
「いますよね~、ああゆう女!」
『春秋ユラリ恵比寿』で、涼子の隣の席に座る後輩・麻里子が、大げさな溜息をついてみせた。平日21:00以降でも胃もたれしない、素材の生きた優しい和食が疲弊した心と身体に沁み渡る。
麻里子は新車プロモーションのチームメンバーで、昼間の打ち合わせにも同席していた。ああゆう女というのはもちろん、浅木和磨の秘書、香奈のことだ。
「どこの港区おじさんと付き合ってるのか知らないけど。100万以上するようなバッグを他人に買わせて、罪悪感とか感じないのかな。」
香奈の生き方をとやかく言うつもりはないのだが、麻里子の言葉には同感である。
涼子は、昔の彼氏にプレゼントしてもらったものを、思い返してみる。
セリーヌのバッグ、TASAKIのジュエリー、ジミーチュウのパンプス…
それらだって十分な高級品だが、バーキンを買わせた香奈と比較してしまうと、自分が随分と安上がりな女に思えてくる。
いや、それは違う。
安い女なのはむしろ、香奈のほうではないか。バーキンを買わせるなんて、水商売の女じゃあるまいし…。
涼子は無意識に首をふるふると横に振っていたらしく、麻里子に「大丈夫ですか?」と心配されてしまった。
欲しいものは、自分で手に入れる。
涼子にとってはそれが当たり前で、そうやって今まで生きてきた。しかし女には、欲しいものを手に入れる方法が、もう1つあるのだということを思い出す。
そこまで考えて、涼子は口の中が苦くなり、目の前の生ぬるいビールを飲み干した。
…そう、男に頼る、という方法が。
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欲しいものは男が与えてくれる。男に頼る港区女子、香奈。
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