二子玉川の妻たちは Vol.5

二子玉川の妻たちは:私は脇役だと、わかっていても。女はみんな、主役になりたい生き物だから

結婚は、女の幸せ。

そう思われがちだが、結婚を手にした後、妻となった女は何処へ向かうのだろうか。

結婚しただけでは満たされない。女たちの欲望は、もっと根深いものだ。

二子玉川のマンションで、夢だったおうちサロンをオープンした由美。しかし同じマンションの最上階にカリスマサロネーゼ・マリが越してきて出鼻を挫かれる。

どうにかしてマリに勝ちたい由美は、雑誌の読者モデルとして活躍するミカに近づく。ミカは最近アロマバスソルトをプロデュースしたり、アロマビューティーライフクリエイト協会を設立したりと活躍目覚ましい。

鼻であしらわれる由美だが、とある作戦を思いついた。


主役女と、脇役女


「それでさ、マリ先生のドレスがまたバブル臭すごくて…!」

土曜日、グランドハイアット東京の『オークドア』で、由美が言葉を選ばず愚痴っている相手は、横浜の女子高時代からの親友・佳奈子である。

10代からの気の置けない友人は、何でも話せて本当に楽だ。スマートな紳士淑女が集うラグジュアリーな空間に、少々似合わぬ会話ではあるが。

佳奈子は美人な上に頭も良い。慶応大学卒業後は、広告代理店に入社。すぐに麻布十番でひとり暮らしをはじめ、東京のど真ん中でキラキラと輝いた人生を生きている。

一方の由美はというと、慶応桜散り、立教大学に進学。卒業後も、佳奈子と同じ広告代理店業界を志望していたものの全滅。やむなく損保OLの道を選んだ。川崎の実家から丸の内に通勤し、ひたすら地味な事務作業をこなす日々を送ってきた。

昨日も夜遅かったのだろうか。ラフに巻いた髪を無造作に束ね、すっぴんに伊達メガネでレストランに登場した佳奈子。

しかし、それがこなれてオシャレに見えるのは、美人の特権だ。由美が同じことをしたら、入店を断わられるに違いない。

「別に無理してサロン続けなくたって、やめちゃえばいいのに。さっさと子ども作って、胸張って専業主婦になっちゃえば?」

よりにもよって同じマンションの最上階に越してきた、マリへの不平不満が止まらない由美に対し、佳奈子はあっさり正論を述べた。

まあ、考えてみればそうなのだ。佳奈子の言葉は正しい。

由美のおうちサロンBrilliantは、現状、完全に赤字。商社マンの夫・雄太の稼ぎで十分暮らしていけるのだから、賢妻なら潔くやめるべきだろう。

まあ、ね…と、曖昧な笑顔を返しながら、由美は心の中で呟いた。

ーマリ先生と同じ、主役人生の佳奈子には、わからないのよ…。

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