結婚して妻になった途端、女はオンナでなくなるのだろうかー
かつてはあれほど自分を求めた夫も、結婚後は淡白になり、ただ日々の生活を営むパートナーになった。
外見に気を遣い、綺麗な女であろうとしても、褒めてくれるのは同じ主婦ばかり。
私はもう、オンナとしては終わったのだろうか?
そんな疑問を感じた妻が、密かに食事会に顔を出す。
そう、己の市場ニーズを、確認するために。
絵に描いたような幸福な人妻、遥。34歳。
日本女子大を卒業後、三大メガ損保の一般職として就職した。大学時代のサークルで知り合った今の夫からプロポーズされ結婚し、なんの苦労もせずに子宝にも恵まれ、豊洲のタワーマンションに住んで9年になる。
小さな子供がいると言っても、遥は全く所帯染みていない。主婦雑誌で読者モデルとして活躍し、恵まれた人生にみえたが、当の本人は物足りなさを感じていた。
雑誌の撮影に行けば、自分より美しい女や裕福な女など掃いて捨てるほどいる。カリスマ主婦、と言われるほどの特別感が自分にはないことはすぐに気づいた。
遥は34歳になったその日から、自分に問いかけていることがある。
ー私は果たして、今でも女として通用するのだろうか。
正直婚活だとか、そんな苦労はせずにすんなりと結婚した。
男の方が自分に一方的に惚れ込み、自分は数いる候補者の中から一番結婚向きな男を選べばいいだけだった。結婚とは、そんなものであり、最近の若く、自分よりもずっと綺麗な女達が結婚できないとぼやいているのが遥には信じられない。
もともと学生時代に同じ就活セミナーで隣同士に座ったことがきっかけで仲良くなった同じ年のマキコも、遥がよく呼ばれる主婦雑誌の撮影で知り合った亜希も、紗弥香も皆そう言っている。
そんな風に、少し高飛車で、自分の容姿に自信のある同年代の女たちが仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。
目黒在住の亜希、光が丘在住の紗弥香、港区在住のマキコ、そして豊洲在住の遥と、住む場所は違っても、4人は主婦なのにも関わらず“女子会”と称して頻繁にランチ会を行い、月に1,2度は夜も飲みに出かけるほどに仲が良い。
4人共、流行りの服を着こなす財力もあり、それを魅せる場所だってある。そして何よりも34歳になる遥たち自身が、自分を着飾ることにまだ大いに関心がある。
夫もいて、子供もいて。もう配偶者を新たに探す必要のない自分が「着飾る」ことに対する目的が良くわからなくなっていた時に、ふとマキコから、既婚者限定食事会への参加招集LINEが鳴った。
そう、あの夜が、すべての始まりだった。
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(そして金に困ってないところも笑)