「じゃあ私たち、同じ方向だね。」
はるかが言うと、高志は「そうだね。すぐつかまるかな」と言いながら、拾えそうなタクシーを探し始めた。
深夜2時半、六本木でタクシーを探しているはるかと高志。
はるかは、型にとらわれないリゾート旅館をプロデュース・運営する企業のプロデューサー。旅行が好きで、休暇が取れればすぐに飛行機のチケットを取るなどバイタリティ溢れる32歳。
高志も同じ32歳で、大手メーカーで営業をしている。人当たりの良さと誠実な人柄で、誰とでもすぐに仲良くなれる懐の広い男だ。
今日は、大学のゼミ仲間の飲み会が開かれて久々に皆で集まった。飲み会は盛り上がり、終電はとっくに終わったため恵比寿に住むはるかと品川に住む高志は、一緒のタクシーで帰ることになったのだ。
気になる男友達の意味深な行動!これってどういう意味?!
それは突然の出来事だった。タクシーが渋谷の駅を通過する頃、はるかの手に高志の手が重なり、ギュッと強く握られたのだ。
驚いたはるかは反射的に、右側に座る高志の顔を見た。すると、高志からじっと見つめられ、心なしか高志の顔が少しずつ近づいてきているようにも感じた。
―何これ、どういう意味……?!
右手には高志の温もりを感じ、目の前には高志の瞳が迫る。
「え、ちょっと……?!」
言いかけた所でタクシーが停まる。窓の外には恵比寿駅があった。
「あ、じゃあ気を付けてね。」
ぎこちない態度の高志に言われて、慌てながらタクシーから降りた。
―ねえねえ、今のは何だったの……?!