「あら、前回より頭が柔らかくなってきたんじゃない?そう、答えはDiabloね。Diabloの意味、知ってる?“悪魔”よ。」
……ん?Diabloって。この前桜子と飲んだワインも確か……。『Diablo』!
「確か『HAL PINOT』の森上さんが言ってたわ。今日、10月7日は私の好きなワイン『カッシェロ・デル・ディアブロ』のコンセプトショップが銀座にオープンする日よ。そして、お店の名前は『Diablo』。」
「この前『HAL PINOT』で拾った紙に書いてあった数字も『1007』だったわよね?『1007』って、こういう意味だったんだわ。あれは日付。『Diablo』に行けって意味よ。」
「でも、何のためにそんなメモを……。」
「とにかく、行ってみましょうよ。」
私はまだ状況を掴めないまま、桜子に引っ張られるようにその店へ行くことになった。
その積極的な所、僕にも向けてくれないかい?
『Diablo』に到着。オープン初日の今日は相当賑わっている。
店のスタッフからは「あいにくただいま満席でございます……」と申し訳なさそうに言われてしまった。
「絶対ここに何かがあるのよ。」
桜子は店内をぐるりと見渡し、ここに導かれた理由を探しているようだ。
「仕方ないから、とりあえず他の店で飲んでまた来ようか。」
「あのテーブルは?」
私の言葉は聞こえなかったのだろうか。
賑やかな店内でポツンと空いているテーブルを、彼女の細い指がさした。
「はい。あちらはご予約をいただいております。」
「ふぅーん、ダメなの?」
いや、どう見ても予約ですよ桜子さん。
「19時にこの店で間違いない。きっとここで何かが起こる、もしくはすでに起こっているはず……。」
桜子はホールで忙しそうに動くスタッフに、なにやら声を掛けに行ってしまった。
胸まである髪を片側にまとめ、あらわになった白いうなじ。それを独り占めしたい衝動に駆られて、私はぐっと息をのんだ。
彼女は何やら熱心にスタッフと話し込んでいる。だが、しばらくすると、くるりと振り向きスタッフの一人を連れてこちらに戻ってきた。
「少しだけわかったわよ。このお店でも『HAL PINOT』と同じように、オーナーが大切にしているものがなくなったんですって。きっと、それが関係しているわ。やっぱり、すでに何かが起こっているのよ、このお店で。」
桜子は少しだけ早口で言うと、腕を組んで考え始めてしまった。
二人でワインを飲むにはもう少し時間がかかるか……?
「もしかして……!」
桜子が何かを思いついたように、おもむろにバッグに手を入れたかと思うと、スマホを取り出し熱心に画面を見始めた。
「やっぱり!増えてる。」
桜子にまた、スマホ画面を突き付けられる。画面にはさっきも見せられた「ワインすき!」の掲示板が表示されている。先ほど私の鼻先をくすぐった香りは、少しだけ薄まったか……。
「おや?」
香りに気を取られながらもスマホ画面を見ると、謎が追加されていた。
また謎か……。
少しだけ絶望的な気分になる。
「この謎を解けば、このお店でなくなった大切なものの在り処がわかるようね。同じように解けるかしら?さあ、やってみて?」
あぁ、頼むから今日はこれ以上、謎を増やさないでくれよ……。