人を蹴落とすことに、迷いや躊躇は不要ですよ
僕のコンゴという僻地への赴任も、当時の僕の上司を巧みにそそのかした者がいるという噂を耳にしました。
中途半端に出世している人が1番タチが悪い。僕のように下からか這い上がろうとする者を全力で蹴落とそうとする。そこに一切の迷いや躊躇はないですから。ちょっと歪んでますよね。
芥川龍之介が書いた『蜘蛛の糸』ってありますよね。まさにあんなイメージですよ。1本の蜘蛛の糸に群がる商社マン。後ろに続く者を蹴落とし、自分だけが糸を登りきることしか考えていない。
そんな事が続いて辟易することは何度もありました。汚い手段を使ってくる奴らが上司に気に入られている姿を見ると、僕の中でもドロドロに濁って発酵したような思いがでてきましたよ。
僕もどうにかまわりを出し抜かなければと、焦っていました。自分がされてきたのと同じような事を、年下のスタープレーヤーにしようとしていましたから。暗黒面に片足突っ込んでましたね。
でもね、思い出したんです。拓哉がプロジェクトリーダーに抜擢された後、ガムシャラに仕事に打ち込むことで、課長代理には僕の方が早く昇進することができたじゃないかって。
「勝つまでやめなければ決して負けない」
それが僕の信条だったじゃないかって。まぁ、今の時代の子にはウケないのは分かっています。
だから僕は、自分を信じ自分を裏切らないことに決めたんです。
そう決めた夜は、自分を奮い立たせるためまっすぐ家に帰らず、一人で恵比寿の『夜木』に寄りました。
”最高峰”の味わいを自分の中に叩き込み、ブレそうになる自分と決別したかったんです。
ふくよかな薫りとコクを味わえる『ヱビス マイスター』は、まさにヱビスの“最高峰”ですからね。
”最高峰”を意識するきっかけになった、雲海を下に眺めるCMを思い出し腐らずに前向きになろうと思えました。
今も目指すは高い山の頂。会社でいうところの役員の地位です。山の頂も出世の頂点も、万人が辿り着けるものではないかもしれませんが、そこに存在している限り、僕はそれを追い求めようとあらためて思えたんです。
それからしばらくして上司に呼ばれました。
「いよいよ部長昇進か」
期待を膨らませていましたが、告げられた内容は子会社への出向でした。それはまさに青天の霹靂。