心に浮かぶ小さな「?」は女の第6感
美希の実家は軽井沢で代々続く大病院。誠司の実家は軽井沢に拠点を持つホテル会社を経営している。2人とも慶応大学に進学し東京で暮らしていたから最初の新居は日本橋に構えたのだが、美希の強い希望で3年前に軽井沢に戻った。
「美しい景観の中で生活すれば、美しい人生になる。」
美希はそう言って誠司を説得し、両親から譲り受けた南ヶ丘別荘地にレンガ造りの豪邸を新築した。300坪以上ある庭には芝が敷かれ、定期的にメンテナンスをして整然と整えられている。
今まさに「ゆうちゃん」が自慢しているように、別荘文化発祥の地である旧軽は古くから政財界の大物、文豪や音楽家など数々の著名人が別荘を構えてきた由緒あるエリアで、やはり断トツのステータスがある。地価も圧倒的に高い。
旧軽は軽井沢の港区的エリアといえるだろう。
とはいえ、美希の家がある南ヶ丘別荘地もひけをとらない。名門「軽井沢ゴルフ倶楽部」の会員を中心に別荘が建築されたエリアで、緑豊かな平坦地が広がる住みやすい別荘地だ。
「・・・だから、良かったら今夜僕の旧軽の別荘に遊びに来ない?マコもそのほうが楽しいだろうし。」
「へぇ、すごいですね!」と言いかけて美希は慌てて中止した。気が付いたら別荘自慢は終わっていたようだ。
「美希さん、ぜひ。軽井沢の暮らしのこと、色々聞きたーい!」
マコが甲高い声でプッシュしてきたが、申し訳ないが美希は「ゆうちゃん」の旧軽の別荘にもこの夫妻自体にもまったく興味が持てない。
「お誘いとても嬉しいのですが、今夜は友人とディナーの約束をしていて。」
いかにも残念そうに断って、「では、私はそろそろ。」とその場を離れた。朝から疲れる人種に出会ってしまった。帰ったら愛犬・チワワのフランちゃんと紅葉を見ながらお散歩してリフレッシュすることにしよう。
ああそうだ、エミさんに今夜の予定を聞かなくちゃ、と携帯を開くと、2人からLINEが届いていた。1つは、大学の後輩・加奈から。今週末軽井沢に来る約束の確認だ。
そしてもう1つは、誠司から。
「今日はかなり遅くなりそうだから日本橋の家に泊まるね。ごめん。」
OKのスタンプを送信した後で、美希はなんとなく変な感じがした。帰れないと判断するのが早すぎる。まだ午前中なのに。
「・・・まさか、ね。」
小さな「?」を消し去るように今朝の穏やかな誠司の笑顔を思い出し、美希はそれ以上考えるのをやめた。
次週10月22日土曜更新
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