「僕の別荘は旧軽なんだけど」別荘自慢あるある
誠司を駅まで送ったあと、美希は旧軽の『SAWAMURA』に立ち寄った。ここで毎朝ホットティーラテを頂くのが美希の朝の楽しみだ。
旧軽の『SAWAMURA』は7月~8月はオープン時から観光客で混雑していて、美希をはじめ地元の人間や別荘族もあまり近づかない。9月以降、ようやく軽井沢らしいゆっくりした時間が過ごせるようになる。
美希は目前に広がる紅葉を写真に撮り、Facebookを開いた。すると、「軽井沢に来ています。SAWAMURAで朝ごはん♪」というポストが目に入る。投稿者は、マコ。昔ブランドのレセプションパーティーか何かで知り合った典型的な港区女子だ。
以前から派手だったが、昨年、美容外科経営の男性と結婚してからさらに拍車がかかり、SNSにやたらとHマークのオレンジの箱をちらつかせている。
誤解のないように言うと、美希も母から譲り受けたものも含めバーキンを複数所有しているので特に羨ましいわけではない。
無視しよう、と思い携帯をピコタンにしまった瞬間、後ろから声をかけられてしまった。さすが東京24区と言われる軽井沢、偶然カフェで東京人と出会ってしまうから驚く。
「あれ、もしかして美希さん?」
聞き覚えのある甲高い声。穏やかな笑顔を作ってから、美希はゆっくり振り返る。
「マコちゃん!久しぶりね。今、ちょうどFacebookで見かけてどこにいるのかしらって思っていたのよ。会えて嬉しいわ。・・・ご主人様も、初めまして。」
「あ、ゆうちゃん、こちらは軽井沢に住んでる美希さん。」
ゆうちゃん、と呼ばれた男性は可愛らしい呼び名とは相反していかにも鍛えてます、という筋肉質な身体つきをしていた。肌ツヤもやたらといい。もう50歳近いと思われたが、シャツの襟もとからちら見えするネックレスが現役感をアピールしている。
「えっ、軽井沢に定住してるんだ?僕は旧軽に別荘を持ってて。美希さんはどの辺りに?」
そう、この手の人種はすぐに別荘地エリアを聞いてくる。
「南ヶ丘です。」
実家は旧軽にある、という情報は敢えて言わずにおいた。彼に知らせる必要のないことだ。
「今日は晴れだし、紅葉が楽しめる良い時期にいらっしゃいましたね。」
せっかく話題を変えたのに、「そうなんだよ。旧軽の僕の別荘はリビングが一面窓になってて、そこから紅葉がとっても綺麗に見えて・・・」と別荘自慢が始まってしまったので、もう勝手に喋らせておくことにした。
時々「へぇ、すごいですね!」と言っておけば話は合うだろう。
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