土曜日
On Saturday
AM12:00
『ポディアムラウンジ』でシャンパンを楽しく飲んでいた矢先、またヤツがいた。どうして毎回行く先々に現れるのか分からない。そして、ニヤつきながらこっちに近づいてくるではないか。
「僕達、ご縁があるようで」
ない。関わりなくもなければ、縁も何もない。
「真美さんはいつから修二さんとお付き合いされてるんですか? こんな綺麗な彼女さんがいて、さすが修二さん。羨ましいな」
まったく心にも思ってないことをツラツラと言ってくる。
「シンガポール、楽しんでいますか? ホントこの国はご飯も美味しいし街も綺麗だし、最高ですよ」
慎吾にシンガポールを語られなくても十分魅力は分かっている、と心の中で突っ込んだ。
「『シンガポール・パブクロール』って知ってますか? シンガポールにあるいろいろなパブを渡り歩くツアーで、ガイドさんがシンガポール川エリアにある隠れた名所を紹介してくれるんです。いろんな人気スポットを発見できて、お酒好きの修二さんにすごくオススメですよ。
そうだ、彼女さんも一緒に行きましょうよ。修二さんと一緒にいたら良いお酒をたくさん飲んでると思いますけど(笑)」
慎吾の目が笑っていない表情にゾッとする。じつは修二はそこまでお酒が強くない。それを知っている慎吾の嫌味っぷりに辟易しながら、真美の肩をぐいと引き寄せた。
えー楽しそうですね、と呑気に笑う真美を慌てて遮り、「いま俺らデートの時間だからまたな」と慎吾を振り切った。
「またすぐにー」と言う慎吾の声を背後で聞きながら、『ポディアムラウンジ』を後にした。この勝負、絶対負ける訳にはいかない。
酔っているのか慎吾への怒りなのかわからない感情を引きずったまま、今回楽しみにしていた『ブドワール・ノワール』の会場へ向かう。
ニューヨークからやって来た芸術的なショーが楽しめる『ブドワール・ノワール』。少し緊張しながらふたりで会場に入ると、そこにはまさに“選び抜かれた大人の夜の遊び場”が広がっていた。
ドキリとするような演出とパフォーマンス。思わず食い入るように舞台を見つめる。真美もすっかり魅了されており、ふたりとも言葉を失っていた。
しかし、劇に魅了されながらも、別れ際に慎吾が耳打ちしてきた言葉がずっと頭の中でこだましていた。
「修二さん、俺、正々堂々と戦いますよ。真美さんすごくタイプです」
もう二度と、大切なひとを慎吾に奪われる訳にはいかない。
シャンパンを一気に飲み干し、修二の中である決心がついた。
次回予告:いよいよレース本番!恋のレースも走り出した修二が決めた決断とは!?