精神科医エレナ Vol.2

精神科医エレナ:自信欠乏者な「ザ・国産男」。彼の失恋に効く処方箋は?

慌ただしく、そして力強く、東京を生き抜く男たち。

だがしかし、東京で暮らす男は皆、煌きながらも、密かに心の闇を抱え戦っている。

いくら頑張っても果てしなく渇き続けるそんな東京砂漠に、一滴の雫の如く、彼らの闇を癒す存在がいた。

エレナ、29歳。石川県出身。職業、精神科医。

これは、彼女が東京の男たちの心の闇を解決していく物語である。

先週、美人形成外科医の悪友サトコから強烈な結婚宣言を受けたエレナ。今日は早速、そんなサトコの頼みで、証券会社勤務の34歳・崇成の悩みを聞くことに…


店選びから、エレナの診察は始まっている


エレナはタクシーの中で、サトコからのLINEを見返した。

「今夜の患者様:崇成、34歳独身。私に振られて、病んでる。あと色々あるらしいけど、面倒くさいから聞いてない。笑」

投げやりな文章に、“ジョジョ”のキャラクターがニヤリと笑うスタンプが続く。

あいかわらず、可愛げのない女だ。



崇成が予約してくれたのは、ホテルオークラ東京『ラ・ベル・エポック』。リニューアル後に行くのは初めてだが、雰囲気やサービスに安定感があるのはもちろん、グルメな友人のなかには東京で一番おいしいと絶賛する者もいる。


老舗の日系ホテルのレストランを好む男。

彼らは安定志向で真面目な、いわゆる結婚向きな男で、大抵の場合は誰もが羨む素晴らしい家庭を築く。

妻は夫に贈られたジュエリー(他人に見せて恥ずかしくなく、かつ家計を圧迫しない、50万円前後の価格帯のものだ)をブログにアップし、3人子供を産み、犬を飼う。そんな生活を彼女は心の底から楽しみ、それを目を細めて眺める夫もそれを「幸せの正解」と信じて疑わない。

彼らは伝統ある日系企業に就職し定年まで勤め上げる。そしてたいてい、トヨタか日産の車に乗っている。

登場したのは、「30代男性のお手本」のような男。


崇成は、中肉中背の身体に「ダーバン」のスーツをまとい、こざっぱりとした短髪の黒髪に、善良で意志の強そうな笑顔を張り付かせていた。

「忙しいのにごめんね、どうせサトコが強引に話を進めたんだろう?あいつは気が強いからさ、エレナちゃんにもきっと迷惑かけてるだろう」

―言われなくても、私のほうがサトコのことよく知ってます。―

言いたいことはいろいろあったが、とりあえず崇成の話を「傾聴」することにした。

あいつは本当に高飛車でとんでもない女だ。あんな女を手に負えるのは、俺くらいだ。急に「結婚するからもう会なわい」なんて、ありえない。

―まあ、確かに、ありえない。どう考えてもサトコが悪い。エレナは心から気の毒に思った。

もっともサトコは彼と交際したつもりは皆無なのだが、崇成の「常識」によると、定期的に食事に行って寝泊りする男女は、付き合っていることになるらしい。

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