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  • お酒の履歴書 Vol.3

    お酒の履歴書:乾杯から始まる恋物語〜モテ期到来(?)代理店マン 西野の場合〜

    「チンチン チンザノ!」とお約束のセリフとともに氷の浮かんだグラスを重ねる。

    「ほんとだ! 氷を入れるとニュアンスが代わりますね。いつもよりさっぱりして夏にぴったり」

    明子ちゃんの飲みっぷりもさまになってきた。
    「ちょっとリゾートっぽいでしょ」
    「うん、日本橋のリゾート(笑)」
    「色んなフルーツをカットして、チンザノのフルーツポンチにするのもおすすめだよ」
    「それ、すっごい惹かれます!」

    今日はメイクも少し違う感じで大人っぽく見える。夜だからか、照明のせいか、昼に合う明子ちゃんとのギャップに動揺する。

    昼と夜、両方のデートを経験するのは、つき合う前に効果的かもしれない。昼の方が日常的でその子の生活感が垣間見えて、そして夜会った時には女性らしさが増して、今みたいにそそられる。

    それに、昼に何度かデートをした女の子は家庭像が見えやすい。結婚したら、ピクニックでも公園でも、子供と一緒に出かけるのは昼間だし、週末ともなれば昼間に一緒に過ごす時間の方が圧倒的に長い。まわりの友達も、男女問わず昼の遊びが好きな人の方がみな結婚が早い気もする。

    ロティサリーチキンを食べながら、この日、明子ちゃんはゆっくり3杯を飲み干した。時刻が22時を過ぎたころ、頬はピンク色に染まっていた。

    「今日はいい気持ちにホロ酔いになってきました」
    「体質的には大丈夫なの?」
    「はい、頭は痛くなったりしてないです。でも、ちょっと眠いかも…」

    確かに目が少しトロンとしてきている。かわいい系の女の子だけれど、普段は案外しっかりした印象なので、これもまた惹かれるギャップだ。前に「酔って第2の自分をだしてみたい」と言っていたけれど、これはその新たな顔かも。

    「チキンもお酒も美味しくて幸せ♡」
    「もしも眠かったら、無理しないでね」
    「大丈夫です。このあとどうします?」
    「明子ちゃんはどうしたい?」
    そう聞くと、うつむき加減で空いたワイングラスを見つめている。

    「どうしようかな…」
    小さくつぶやいただけで、何も言い出さない。二の腕や鎖骨まわりは透き通るように白いままで、その肌の色との差に頬の赤みが引き立てられている。口紅ではなく、唇は天然の赤みを発している。

    両手でコップを持って水を飲んだあと、また話しだした。
    「西野さん、今日あんまり飲んでないんじゃないですか?」
    「そうかな」
    「私だけ酔っ払ってるみたいで恥ずかしいです」
    確かに自分はそんなに酔っていなくて、でも彼女を前に冷静でもなかった。

    「どこかソファがあるようなリラックスできる場所で、お茶したいかな…」
    そう言って潤んだ瞳で見上げてくる様子に、バリアはいっさい感じられなかった。

    (第3話・終)

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