翌土曜は昼に起きて会社に行きプレゼンの準備。そのあとは19時から明子ちゃんとディナーの約束だ。明子ちゃんと夜に会うのは今日が2回目。いつも明るい太陽の下で会っていて、明るい場所で見ても肌になんのくすみもない。
「西野さん! こんばんは〜」
「こんばんは」
明子ちゃんは東京生まれの実家住まいで、裕福かはわからないけれど、きちんとしたお嬢さんという印象。セントフォースにいそうな感じの女の子だ。
「今日はけっこう暑かったですね。昼間は何してたんですか?」
「会社でずっと仕事してた」
「土曜日も大変ですね」
「いま大きなプレゼンが近くって」
前回はランチを食べてふたりで『レヴェナント:蘇りし者』を観て、スパークリングワインを一杯だけ飲んで解散。ランチと映画後の飲みはさくっとしたものだったけど、映画が予告含め3時間くらいあったから、対人距離が近い時間がとても長かった。明子ちゃんは怖いシーンでときどきピクッとするのが小動物のようでかわいらしかった。
「初夏でも室内の冷房寒いですよね。私も一昨日、冷房つけたまま寝ちゃったら寒くて、北極にいる夢みたんですよ」
「まんますぎる(笑)」
人の夢の話はたいていどうでもいいけれど、明子ちゃんの場合どこか微笑ましい。しかし、冷え性だと言うわりには、今日はノースリーブのワンピースで白い二の腕をさらしている。
この日はロティサリーチキンが有名な『グリルバール ダパウロ』でディナー。一度目のディナーのリクエストも肉だったけれど、今回も同じ返答だった。
あまりこだわりはないようで、いつも店は俺が決めている。こういう所も美佳と違うところだ。26歳だからかなとも思うけれど、年齢というよりは、もともと食への興味が強い方ではなさそう。
「私、またチンザノのスパークリングがあったら飲みたいな」
「ここも置いてると思うよ」
「嬉しい! 喉が渇いているから早く飲みたーい!」
発言も願望もいつもシンプルな子だ。
「じゃあこの前と飲み方を変えてみようか。今日は暑かったから、氷を入れたら冷んやりして美味しいよ」
チンザノ アスティをちょっと甘いと感じる男性でも、氷を入れるとキリッとして飲みやすくなる。氷のおかげでいつまでも冷たいまま楽しめるのもいい。どうせ自分はたくさん飲めるから、この日はボトルでオーダーした。
「スパークリングワインに氷を入れて飲んでもいいんですか??」
「何もルールはないよ。その人の気分で好きに飲んだらいい。それに明子ちゃんみたいにお酒にあまり強くない女性でも、氷を入れればアルコール度が少し弱まるから飲みやすくなる」
「西野さんてお酒にもレストランにも詳しくて、教えてもらえるのが楽しいです。実は前の彼氏は私みたいにお酒を飲まない人だったから」
元カレの話を初めてされて、そのことに突っ込んだ方がいいものかどうか…と思っていると、ちょうどいいタイミングでボトルがやってきた。