幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.9

幸せな離婚:夫の浮気疑惑が浮上したその夜、妻は別の男に抱きしめられ……。

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案していた。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。だが竜也の仕事は軌道に乗り、借金と生活費を渡すようになる。

ところが竜也に浮気疑惑が浮上。そして妻の恭子は別の男とあわや浮気……!?

第8話:女には理解できない男同士の友情。2人のせいで真実は闇の中へ……!?

表参道ヒルズからほど近いビル、GYREの4Fにある『スモークバー アンド グリル』のテラス席に案内されると、すでに夏子待っていた。

この店は室内の天井が高く各席の間隔もゆったりとした作りだが、より開放的な空間で聞いた方がお互いに話しやすい気がして、ふたり用のテラス席を恭子が予約した。

自家製の鴨の生ハムや蛸とマッシュルームのアヒージョ、ピザトーストをつまみ、シャンパンを美味しそうに飲み干した夏子が話を切り出した。

「真実が言ってた恭子の旦那さんのことなんだけど」その話が聞きたかったと、恭子は目で先を促す。

「未遂かもしれないんだけどね……」

「未遂ってどういう意味?」

質問すると「真実と黒木さんと恭子の旦那さんが、一緒に飲んだことがあるのは知ってる?」と逆に質問されたため、首を縦に振ると夏子が話を続ける。

「その場って実は3人じゃなくて、もうひとり女が混ざってたらしい。しかも頻繁に。会うたびに恭子の旦那さんとその女、かなりいい雰囲気だったらしいよ。ダブルデートしてるみたいだって真実、言ってた」

じゃあ、竜也が事務所に泊まると言っていた日はもしかして――。ネガティブな考えに思考を占拠されそうになるが、浮気かどうかは今の段階では確定してはいない。

「その女って、どんな人なの?」

もし竜也が浮気をしていたなら、その女は自分にとって敵だ。情報をつかんでおかないと戦うことすらできない。

「それがね、真実、最初に会ったときに名刺交換したんだけどすぐ捨てちゃったんだって。真実は不倫してる立場でその女と会ってたわけじゃない。バツが悪いし、仕事でかかわるのも嫌だからって」

ただ何度も会ったため、下の名前と年齢、職業は覚えているという。真実から聞いた夏子が語る情報によれば、その女の名前は美香。年齢は28歳。ヘアメイクの師匠から最近、独立したばかりだという。

「なにを考えてるのかイマイチ解らないところがあって、友達になれそうなタイプじゃないって、真実が言ってた」

「でもなんで真実、あの場でわたしにこのことを言ったのかな」

不倫相手の黒木と刃傷沙汰になり、自分だけが不幸になるのは耐えられなかったのではないか。真実の辛い状況を想像すればありえないことではない。正直に夏子に気持ちを告げる。

すると夏子が「最初はわたしもそう思ったよ」と頷いた。

「わたしもそうだけど真実もあのとき、初めて恭子の旦那さんと自分が知り合いだったって解ったらしいの。動揺しすぎてつい、言っちゃったみたい。

だからわたしとふたりきりになったとき、すごく後悔してたよ。『恭子が知らなくてもいいことを教えちゃったかもしれない』って泣いてた。恭子に嫌われたらどうしようって。だから、許してあげてよ」

「許すもなにもわたし、怒ってないし。むしろ真実に感謝しないと。竜也が浮気してるかは解らないけど、知らないままでいたら大事になってたかもしれないし」

「そうだよね。旦那さん、これからちょっと注意して見ることができるしね」

結婚して7年経ち、お互いに新鮮味があるといえば嘘になる。しかも竜也がフリーライターとして仕事に困窮してから2年ほどセックスレスでもある。

――だからって浮気? まさか……。

原宿に向かう夏子と店前で別れて表参道までの道を考えながら歩いていると、前方から見覚えのある男が歩いてきた。

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