僕のヤバい時計 Vol.2

僕のヤバい時計:オンリーワンの時計にこだわる、外資系金融VPの幸福論

時計1つとってみても、物に対するこだわりは、選ぶデザイン、ブランド、値段、買い方などに顕著に表れるものだ。そして、破格の高級時計をコレクションにする者がいる一方、敢えて1つの時計にこだわる者もいる。

ヤバいシリーズ、高級時計編の第二弾。某外資系証券マンI氏にご登場いただくことにしよう。

JR有楽町駅から徒歩5分ほど銀座方面へ歩き、東急プラザの裏路地に入って真っ直ぐ歩いていくと、左側に「五明」と書かれた白い暖簾が低い門戸に掛けられており、一見してそこがレストランだとは思いもしないだろう。

階段を降りていくと、地下に広がる空間は漆塗りの壁で隔てられ、まるで古都の格式高い高級料亭にでも迷い込んだかのような錯覚に陥る。

支配人に案内されて店内の奥へ進んでいくと、煌々と照らされたカウンターが視界の前に広がり、バカラのグラスでさえ添え物に見えてしまうほど、荘厳華麗な空間がそこにはあった。その真ん中に男は腰を下ろした。彼の左手首には、ロレックス デイトナブラック。

Y.I氏 32歳

「結局自分は、自分が情熱を傾けたものを最後までやり切れなかった人間なんだ、と思っています」静かな語り口で、口を開いた。

金融業界に身を置いて、約10年。ニューヨークで生まれ育ち、就職を機に21歳の時に来日。某米系証券会社に5年ほど勤務した後、欧州系証券会社に転職し、ヴァイス・プレジデントの地位にまで上り詰めた。

元々経済やマーケットについて学ぶのは好きだった。全米トップクラスの富豪が住むと言われるウェストチェスターで、父が営んでいた日本食料理店でウェイターをしている時、常連の証券マンに金融業界への就職を勧められたのがきっかけだったという。

傍から見れば、輝かしい経歴であることは間違いない。

「僕は、やりたい仕事ではなく、出来る仕事をすることにしただけですよ。」と、諦めとも捉えられかねない語り口で、趣味へのこだわりを話し始めた。

そのエリート風な風貌からは想像し難いが、幼少期に旅先で出会った人物に手品を見せてもらったことから、手品の世界にはまっていったという。得意先との会食では、今やプロ顔負けの手品を披露することも。いつでもマジックバーで働ける自信はあります、と余裕顔。

「パフォーマーの単なる自己満足なのか、本当に相手を楽しませようとしているのか、パフォーマーの姿勢は気になります。手品をしていると、観客の中には必ず『トリックが分かった!』 と言う人がいるんですよ。その人を喜ばせる為に、わざと失敗してみせられることも、プロの腕の見せどころ」と、昼は証券マン、夜はマジシャンと2つの顔が垣間見えた瞬間だった。

この男には、何かセオリーがある。それを嗅ぎ取った我々は、彼にある疑問を投げかけた。

―I氏には、人生で大事にしている美学のようなものってありますか?

「そうですね……(沈黙)『これさえあれば』、『これさえすれば』というものは、大体がっかりするものだと思っています」

―えっと、欲しいものが手に入っても、がっかりするとはどういうことでしょう……

「欲しいものを得るまでに努力する、そのプロセスに幸せを感じられなければ、いつまでも幸福にはなれないってことです。この業界で10年働き、大体欲しい物は手にしてきましたし、手に入れられます。(愛車はアストンマーティン V8 ヴァンテージだとか)

でも、入社した時から今のほうが幸せかっていったらそうではないんですよ。年収が2倍になったからといって、幸福感が2倍になるわけではない……」

物欲を満たすサイクルから抜け出そうとしている中、時計の持ち方に対するこだわりもあるようだ。

「持つべき時計は、21歳の時に買ったこのロレックス デイトナブラックだけでいいと思っています。きりがないですからね」

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