文具の品格 Vol.1

文具の品格:「仕事できなそう」との一言を払拭すべく、男が手にしたモノとは?

裕哉は、目の前に広がる光景に圧倒された。ガラスのショーケースがずらりと並び、そこに数えきれないほど多くの種類のペンが美しくディスプレイされている。裕哉が向かった先は、会社から徒歩圏内にある有名老舗文房具屋、丸善の丸の内本店であった。

とにかく、あまり時間がない。

裕哉は全体をざっと見渡した。ダイアモンドがちりばめられた宝石のようなペン、大理石のような模様のオレンジと黒のコントラストが美しいペン、木とメタルの組み合わせがユニークなペン――など、見たこともない様々な高級筆記具がいくつも並べられている。

そしてその中で、息をのむほどに美しい1本のペンが、裕哉の目にとまった。

無我夢中で飛び込んだ、未知の世界での「清水買い」

これが冒頭の「マイスター シュテュック ソリテール ブルーアワー ル・グラン」の万年筆である。裕哉は店員に声をかけた。

「すみません。このモンブランの万年筆が気になるのですが、見せていただいてもいいですか?」

裕哉の身なりと態度を見て、一目で「冷やかしではない」とわかったらしい。店員は愛想よく丁寧に接客してくれ、初心者の裕哉にいろいろなことを快く教えてくれた。

万年筆は使い込むほどに持ち主の手になじみ、ペン先が滑らかになっていくため、持ち主にとって書きやすいものになっていくこと。「ブルーアワー」シリーズのイメージコンセプトは、「暮れゆく都会の光と暗闇」であり、昼光と夜の狭間の魅惑的な時間(=ブルーアワー)から着想を得ていること。

光沢のある濃紺のボディとキャップにまるで宝石のようにちりばめられたヘキサゴンパターンは、都会の街を行き交う車とヘッドライトの反射を表現していること――などである。

話を聞いて万年筆と「ブルーアワー」の魅力にすっかり取りつかれた裕哉は、少しの雑談と試し書きをさせてもらったあとで、このペンの購入を決心したのである。

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