いい歳したオンナの自然反応か、“独身”とわかった時点で、相手のことがより“オトコ”に見えてくる。自分の目の色がヨコシマになっていないか気になっているところ、ついに憧れのチリクラブが登場した。カラダ中にソースをまとった蟹は両手を合わせたくらいの大きさで、堂々と皿の上にそびえ立っていた。
「うわ〜、すごい迫力!」
私は携帯で写真を撮りまくる。なんてフォトジェニックなんだろう。初めて蟹のことを格好いいと思った。
「マリーナ ベイ サンズみたい!」
「あはは、ほんとだね。チリクラブってベタだけどお客をワクワクさせるというか、エンターテイメント感があってみんな喜んでくれます」
佐野 誠は、器用にハサミを使って蟹をさばいていく。私も夢中になって蟹と格闘する。爪の身がすぽっと取れてにんまりしていると
「初対面なのに、いきなり無言のディナー(笑) 蟹って忙しいもんね」
「あっ、すみません! じゃあ、何か質問してください」
「そうだな……。梨花さんは、彼氏はいるんですか?」
丁寧でいて大胆な人だ。
「いませんよ」
私は蟹を食べながら動揺を隠し答える。日本の蟹よりも歯ごたえがあって、甘辛くフルーティーさもあるソースと相性が抜群。白ワインが飲みたくなってきた。
「お酒のお代わりどうします? 白ワインとか飲みます?」
こういう男性が天使に見えるときがある。彼氏の話からそれてほっとしていると
「美人なのに彼氏がいないとは不思議です。東京は贅沢な街だなあ」
蟹の殻をバリバリ割りながらさらりと言う。
それからあとは、彼の出身地の話だったり(神戸出身で一橋大学卒、帰国子女ではなかった)、シンガポールのおすすめの店の話を聞いた。
天使が巨大ワインセラーにワインを取りに行ってくれるバー『DIVINE(ディヴァイン)』や、ルーフトップで全面ガラス張りの個室がある『オルゴ・バー&レストラン』 など、話を聞いているだけでもゴージャスな店揃い。
食後にiPadで各店のHPを見ると、東京に比べてシンガポールのダイニングは箱の造りがダイナミックで驚いた。夜景を一望する全面ガラス張りの個室では、夜な夜な合コンも行われているのだとか。
「誠さんも合コンとかに行ったりするんですか?」
「前はCAとの飲みに誘われたりしたんだけど、最近は行かないかな。むしろ男同士で鮨を食べに行ったり」