東京☆ビギナーズ Vol.10

東京☆ビギナーズ:「ヴーヴ・クリコ飲みたがる女」との遭遇と、東京女子最大2,000円理論。

前回のあらすじ

関西出身のインターネット広告営業マンのシンゴ(28)は、社会人6年目で突如、東京転勤に。

重要な顧客との接待対決に挑むも、大手代理店の営業「溝口」に惨敗し、失意の中バカンスへと出かけた。急に仕事を放り出しての失踪に、チームメンバーからも呆れられてしまう。ひょうひょうとした態度で帰国したシンゴだが、旅をきっかけに果たして成長したのだろうか。

前回東京☆ビギナーズ第9話:底なしのペインを抱えた男の、彷徨える青い弾丸旅行


モデルの撮影業務は、いかにオーラを出すかにかかっている


ラスベガスから帰国したシンゴは、馬車馬のように働いていた。

前回、激ギレさせてしまった同僚の「理恵」とともに、モデルを起用したキャンペーンの、撮影の立ち合いに来ていた。

宿敵溝口を倒すべく修行に行ったとはいえ、直接対決に敗れた直後である。次のチャンスが巡ってくるのを、虎視眈々と狙っていたのだ。

「いずれ、またやつとはどこかで戦う事になるだろうな…。」

「ちょっと。撮影の立ち合い風のポーズだけ決めながら、無駄に格好つけないでもらえますか…。邪魔なんですけど…。」

横でアートディレクターの理恵があきれていた。基本的に営業は撮影時、何もすることがない。というより何もできない。唯一できるのは、カメラの後ろで腕を組み、何かをチェックしている風のオーラを出すことに専念するしかないのだ。

「はぁ…。で、結局、ラスベガスで何か得るものはあったんですか?一応聞きますけど…。」

「よくぞ聞いてくれたね。それについては特別に教えてあげようじゃないか。」

視線をカメラからそらさず、引き続き仁王立ちをしたままシンゴは答えた。

「Why do you have it ?」恩師Mとの突然の出会い




―時を戻し、ラスベガスのとあるパブにて…―

シンゴはラスベガスのパブで、一人ビールを飲んでいた。英語がほとんどできないシンゴは、まわりにいる金髪美女たちを横目に、静かに一人晩酌するしかなかった。すると、突然、隣の席から奇妙な、そしてどこか懐かしいリズムの声が聞こえてきた。

「Why do you have it ? Why do you have it ?」

横を見ると、のっぺりとした顔に黒縁眼鏡をかけた、どう見ても日本人風の男が金髪の美女をナンパしていたのだ。英語の発音も、お世辞にもうまいとは言えず、むしろ下手くそなのだ。

「You want to drink so you have it!」

― これは…、まさか「なんで持ってるの?なんで持ってるの?」コールの直訳なんじゃ!?―

そう気づいた時には、男は見事に女にフラれていた。

「あの…、どうしてそんなに頑張れるんですか…英語もそこまで得意やなさそうなのに…。」

気付いたらシンゴはその男に話しかけていた。すると、男はこう答えた。

「何言ってるんだ、若者よ。ここはラスベガスだぞ。全力で楽しまないと損に決まっているじゃないか。君はそうやって、東京という町でも、関西の想い出を捨てきれず、ビギナーを脱せていないんではないかね?」

「な、なんでそれを…」

「君のその中途半端な関西弁を聞けばわかるよ。いいか、君に一つだけ良いことを教えてあげよう。『郷に入っては郷に従え。ただし、自分は捨てるな。』これだけ覚えていれば、きっと君もスターになれるはずさ。そう、私のようにね!」

「あの…せめてお名前を!」

「私のことは、ミスターMとでも呼んでくれ。」

そういって颯爽と、ミスターMは、なんで持ってるのコール(直訳版)でのナンパに消えていった。

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