崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.7

崖っぷちアラサー奮闘記:初同伴の対価はふたりきりの温泉旅行!火照るカラダの行方は……?

前回までのあらすじ

 北岡涼子、30歳、元女優。社会人経験なし、資格なし、貯金なし。芸能界で活躍したが、徐々に干されて今に至る。就職活動をしようにも、「綺麗」以外の特性がないため続々と不採用通知を受け取る。

 そんななか大先輩の小田につれられて足を踏み入れた、銀座の超高級クラブ『銀華』の由紀ママにひょんなことから店にスカウトされ、夜蝶デビューを果たす。

 そして、客の“魔の手”の真相を知った帰り道、涼子は「二度と会わない」と決めた男と恵比寿駅で遭遇する。

 男との偶然の出会い、指名客からのある誘い、さらに絶句する事件が涼子を襲う!

第6話:崖っぷちアラサー奮闘記:“性なる魔の手”は救いの手なのか

 自宅の最寄り駅である恵比寿駅で遭遇した、「二度と会わない」と決意した男。それは、半年前に1ヶ月ほど交際した、元恋人の三浦拓海だった。顔を見た途端、涼子は過去に引き戻された。

 芸能界を引退した当初、付き合った恋人である。

「わたしね、昔女優をしてたの。売れなくて引退しちゃったけどね」

 ずっと一緒にいるなら黙っているわけにはいかない。そう決めて初めて肌を合わせた後、経歴を打ち明けた相手が拓海である。

 重苦しい雰囲気を避けたくて、笑顔を交えて伝えたが、目元も唇も歪んでいたのだろう。その表情で本心を汲み取った拓海は、「辛い思いをしたんだろうね」と、優しく背中を撫でてくれた。

 拓海の首元に腕を回して抱きつき、切ない涙がうれしい涙に変わり、頬をつたったことも覚えている。

 拓海とは、身体の相性も最高によかった。幾度達しても尽きることのない波にさらわれ、緩急あるリズムで責められると、いつまでも身体が反応することをやめない。行為後は、起き上がることもままならないほどであった。

――こんなに相性のいい人とは、もうめぐり逢えないかもしれない。

 20代半ばまで芸能事務所に私生活を管理されていたため、涼子は男性経験がほとんどなかった。そんな涼子に女としての悦びを教えてくれた拓海に、どんどん溺れていった。

 心と身体をまるごと包み込む拓海の、男としての大きな愛情に涼子は、日を追うごとに夢中になっていったのだ。

 わずかな期間でそこまで惚れた拓海に「もうすぐ“あの件”が片づく」と言われ、立ち去ることすら忘れてしまったが、涼子は別れを決めた夜を思い出して意を決した。

「“もうすぐ”ということは、“まだ”っていう意味でしょう? それならわたしには話すことはないわ」

 待って、と拓海に二の腕をつかまれたが振りほどき、拓海の目を見ないようにして涼子は駅の階段を下った。

「紗耶香ちゃん、昨日は結局、彼に話はしたの?」

 翌日の月曜、『銀華』で待機中に声をひそめつつ聞いた。昨日のランチで、「別れ話を切り出してみる」と紗耶香から聞いてはいたが、“彼”がどう出るかが心配だった。相手は、職探しもせず日がな一日お酒を飲む、自堕落な恋人である。

「それがね……」言いづらそうにしながら紗耶香も小声で答える。
「なんとなく『私たち、もう無理じゃない?』って伝えたんだけど、『なんで?』ってなんにも疑わずに返してくる顔を見ちゃったら、やっぱり言えなくて。でも、これ以上引き延ばしても意味がないから、明日の昼間に話そうと思ってる」

「そう……なにかあったら、いつでも連絡してね」

 囁き合っていると、視線を感じた。顔を上げると、先輩ホステスの杏奈が、客席からは見えないように、ものすごい形相でこちらを睨みつけている。

――杏奈さん、今日はいつもよりイラついてるみたい。

 入店した日以来、杏奈から事あるごとに陰湿な扱いを受けてはいるが、涼子は恨む気が起こらなかった。自分が芸能界から排除され、就職も決まらず貧困に陥ったことを率先して打ち明けられないように、人にはそれぞれの事情がある、と察したからだ。

 そして、先ほど更衣室で、「アンタ、まだいるの!?」と言われたことと重ね合わせて考えていると、黒服が待機席にやって来た。

「涼子さん、ご指名です」

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