崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.6

崖っぷちアラサー奮闘記:“性なる魔の手”は救いの手なのか

前回までのあらすじ

 北岡涼子、30歳、元女優。社会人経験なし、資格なし、貯金なし。芸能界で活躍したが、徐々に干されて今に至る。就職活動をしようにも、「綺麗」以外の特性がないため続々と不採用通知を受け取る。

 そんななか大先輩の小田につれられて足を踏み入れた、銀座の超高級クラブ『銀華』の由紀ママにひょんなことから店にスカウトされ、夜蝶デビューを果たす。

 だが、店の客であるカメラマンから「ふたりきりで撮影したい」というオファーに不信感を抱いた涼子は、同僚の紗耶香を助けるため早めに撮影現場へと到着する作戦を実行する。

 その現場で涼子が目撃したものとは? そして、そこに隠された真実とは??

第5話:崖っぷちアラサー奮闘記:夜の銀座は、弱肉強食!食うか喰われるか、餌食は男か女か?!

 銀座の高級クラブ『銀華』の同僚である紗耶香が、カメラマンの江木に乱暴されることがあってはならないと、涼子は早めに江木宅へと到着した。

 紗耶香の撮影開始時間が10時、涼子が16時と6時間もの開きがある。男女がふたりきりの密室にいて“なにか”が起きるには充分すぎる時間があるし、“なにか”が起きてからでは、紗耶香の心に深い傷が残ってしまうだろう。

 だからこそ、もしもの事態を防ぐためには、早めに訪問しなければならないと判断したのだ。

 涼子は前日にプランを練ったが、紗耶香が到着早々に江木が手を出すとは考えられなかった。それでは単なる犯罪になってしまうからである。

――もし、彼が淫らなことを企んでいるとしたら、まずは被写体の心を開き、そこから身体の距離を縮めていくはず。それで、相手が応じる素振りを見せたら、お互いに合意の上で、という体をなすのでは……。

 だとしたら、何時に着けば紗耶香ちゃんを守ることができるだろう。

 時間を計算するために、10代のころに幾度か経験した、雑誌の表紙撮影を思い返してみた。

 ヘアメイクに2時間ほどかかった後、表紙と中のグラビアページ6カットほどの撮影に、毎回3~4時間かかった記憶がある。江木との撮影にヘアメイクはつかず、「自前でお願いします」と言われたため、事前準備の2時間は考慮しないでいいだろう。

――とすると、紗耶香ちゃんが危険な目に遭うのは撮影が始まってから3時間近辺!

 早すぎる到着は「やはり撮影現場を見学させていただきたくて」と、言い訳をすればいい。嫌な顔をされたら、紗耶香が終わるのを待って撮影を断ればいい。

 そこまでのイメージを組み立てて江木宅へ到着したのが、撮影から3時間が経つ30分前の、12時30分であった。
 だが、縁側がある居室にいたふたりを見て、涼子は絶句した。

 江木と紗耶香が、親しげにデジカメの液晶画面を確認し合っていただけだったからである。

――わたしのネガティブな予想は外れたってわけね……。

 そんな深刻な予想を立てていたとは知らない紗耶香が、庭にいる涼子を見つけて手を振る。その素振りに気づいた江木が、ガラス窓越しに「玄関へ回ってください」と手でサインを出した。

「ブザーに気づかなくてすみません。最近、故障気味で音が小さくなることがあるんです」

 謝罪されながら江木に案内された和室に入った瞬間、涼子は不思議な感覚を味わった。

――なんなの? この、濁ったような乱れたような空気は……!?

 男女が身体の関係を持った後の、濃密で特殊な残り香を味わわされた気がした。だが紗耶香は、「ずいぶん早いね」と、微笑みかけるだけで、不本意な関係に陥った痕跡など見当たらない。

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